寺尾隆ほか『図書館徹底活用術』



 寺尾隆監修『図書館徹底活用術』 (洋泉社/1620円)読了。

 先日読んだ坪井賢一『その手があったか! 時間がない人のための即効読書術』の巻末に、本書の広告(自社広告)が載っていた。それで興味を抱いて読んでみたしだい。

 監修者は、近畿大学中央図書館に30年間勤務し、おもにレファレンス業務を担当したという人物。現場を熟知するプロの視点から、効率的な図書館利用のコツを教える書である。

 ハマザキカク、南陀楼綾繁ら、図書館ヘビーユーザーのライター・編集者なども寄稿し、独自の図書館活用術を開陳している。

 有益な情報も一部にあるものの、全体的に図書館利用の初心者向けの内容で、仕事柄図書館を使い倒している私には物足りなかった。

 この手の本で私のイチオシは、千野信浩の『図書館を使い倒す!』(新潮新書)である。
 10年以上前に出た本なので情報が古くなっている部分もあるが、いまでも十分に「使える」本だ。

■関連エントリ
久慈力『図書館利用の達人』
井上真琴『図書館に訊け!』 

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宿野かほる『ルビンの壷が割れた』



 宿野かほる著『ルビンの壷が割れた』(新潮社)読了。

 8月下旬に発売予定の新刊を2週間限定で全文無料公開し、読者から本のキャッチコピーを公募するというユニークなキャンペーンで話題の作品。

 一気読みしてしまう程度には面白かった。覆面作家のデビュー作だそうだが、文章も展開も手慣れていて、「じつは現役の人気作家が変名で書いた」と言われても信じられる感じ。

 ヒロインは黒木華をイメージして書いたのかな。
 学生演劇の世界が舞台の一つになるのだが、黒木華は学生演劇のスターであったし、映像化するならピッタリだと思う。

 ただ、担当編集者の「ものすごく面白く、そして、ものすごく奇怪な小説でした。/あまりにすごいので、私はいまだ、この作品にふさわしいコピーを書けずにいます」という言葉は、大げさすぎ。

 この言葉から、人は「きわめて斬新な、常識はずれの手法で書かれた、これまでに読んだこともないような小説」を思い浮かべるだろう。
 私もそういう作品を期待して読んだ。しかし、斬新さはあまり感じられなかったし、べつに「奇怪な小説」でもなかった。むしろ、「湊かなえとか、沼田まほかるあたりが書きそうな小説だな」と思った。

 ネタバレになることは書けないが、最後のどんでん返しは無理がありすぎだと思う。ラストでズッコケた。
 あと、この作品だけで一冊にするには短すぎる気がした。紙書籍版は160ページと表記があるから、せいぜい中編程度の長さか。

 斬新さはないものの、よくできたエンタメではあると思う。
 このキャンペーンによって、「わりとよくできたエンタメ」が「ものすごく面白いエンタメ」に嵩上げされ、小型新人が大型新人に見えたとすれば、「大成功!」ということになるだろう。

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花村太郎『知的トレーニングの技術』



 花村太郎著『知的トレーニングの技術〔完全独習版〕』(ちくま学芸文庫/1404円)読了。てゆーか再読。
 1980年に別冊宝島の1冊として刊行された名著の文庫化である。



 私はフリーライターになりたてのころ――つまり約30年前に図書館で本書に出合い、強い影響を受けた。
 手元に置いておきたくて、版元の宝島社(当時は「JICC出版局」)に電話で問い合わせたら、「うちにも在庫がありませんし、重版の予定もありません」と言われてガッカリしたものだ(その後、古本屋で見つけて買った)。

 内容の一部が改訂されているとのことなので、文庫版も買ってみたしだい。2015年に文庫化されたものだが、私が買ったものは2016年の第6刷。けっこう売れているのだ。
 文庫の帯には、「あの伝説のテキストがいまよみがえる!」という惹句が躍っている。私同様、本書に影響を受けた人は多かったのだろう。
 有名なブログ「読書猿」の人も、本書に強い影響を受けた一人である。

 花村太郎は筆名で、本名は長沼行太郎という人なのだと初めて知った。
 1947年生まれ。別冊宝島版を書いたころは30歳そこそこだったことになるが、もっと年配の人だとばかり思っていた。文章に風格があったし、すごい博識ぶりが内容からうかがえたから。

 久々に再読してみて、改めて名著だと思った。「知的生産の技術」本としてはもちろん、文章論・読書論・教養論としても高い価値をもつものだ。
 インターネットどころか、ワープロすら一般的でなかった時代の書だから、情報として古びている面もなくはない。それでも、いまでも傾聴に値する卓見が目白押しである。

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末井昭『結婚』



 末井昭著『結婚』(平凡社/1512円)読了。

 3年前の著書『自殺』に続いて、2文字のシンプルなタイトルのエッセイ集である。

 『自殺』は、少年時代に母親を自殺で喪った末井が、自殺をテーマに綴ったエッセイ集であった。それに対して本書は、末井の2度の結婚生活のことを中心にしている。
 『自殺』も『結婚』も自伝的エッセイであり、重複する話も少なくない。また、末井の現在の伴侶である写真家・神蔵美子の自伝的写真集『たまもの』に出てくる話もある。

■関連エントリ
末井昭『自殺』
神蔵美子『たまもの』

 なので、末井の著書をずっと読んでいる読者にとってはやや既視感のある本だが、同じエピソードでも取り上げる角度は異なるので、十分楽しめる。

 本書は、微温的な「結婚の心構え」などとはかけ離れた内容である。なにしろ、末井も神蔵美子も、世間の一般的常識にはあまり頓着しない破格の人物だから。

 本書の元になったウェブ連載の執筆依頼を受けたとき、末井は「『読んだら絶対結婚したくなくなる本』だったら書きたい」と思ったのだという。

 たしかに、エッセイの中で回想される著者の両親の結婚生活などは、すさまじいものだ。

 父親は食欲と性欲だけで生きている下等動物のような人間でした。



 とか、すごいインパクトのフレーズが頻出する。

 また、末井の最初の結婚生活が破綻していくプロセスも、自らの古傷を刃物でえぐるように容赦なく書かれている。

 妻をしあわせにしようと思ってがむしゃらに働いたのですが、その結果、妻に嘘ばかり言うようになっていました。妻がしあわせを感じていたのは、ひょっとして僕が失業してアパートでゴロゴロしていたころだったかもしれません。お金はなかったけど、いつも一緒にいて、僕を疑うことは一切なかったはずですから。



 ダブル不倫の果てに再婚した神蔵美子との結婚生活も、いまは落ち着いているようだが、最初のころは精神的修羅場の連続である。

 ……と、そのような内容でありながら、読後には結婚の肯定的側面のほうに目が向く。「あとがき」に次のような一節があることは、象徴的だ。

 人は変わっていけること、結婚はそのチャンスだということを、この本を書いて改めて認識したように思います。



 巻末の高橋源一郎(結婚5回・離婚4回のベテラン!)との対談で、高橋は末井昭の文章を絶賛している。
 たしかに、強烈なエピソードを淡々としたユーモアにくるんで綴る、末井ならではの文章である。

■ウェブ連載の第1回のみ、いまも読める→ 結婚 Marriage 末井昭
  
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崗田屋愉一『大江戸国芳よしづくし』



 崗田屋愉一(おかだや・ゆいち)の『大江戸国芳よしづくし』 (日本文芸社/535円)を、Kindle電子書籍で購入。
 
 浮世絵師・歌川国芳の無名時代を描いたマンガ。

 著者の崗田屋愉一は、2011年に「岡田屋鉄蔵」名義で発表した『ひらひら――国芳一門浮世譚』で注目を浴びたマンガ家(ちなみに女性)。……だそうだが、私はこの人の作品を読むのは初めて。

 浮世絵師を主人公にしたマンガといえば、一ノ関圭の『茶箱広重』『鼻紙写楽』、杉浦日向子の『百日紅』といった大傑作が、すでにある。ゆえに、いまから類似作を描くには、それらの傑作と比較されることでワリを食う覚悟で臨まなければならない。

 私も、心の中で比較しながら読まざるを得なかった。
 崗田屋愉一もきれいでうまい絵を描くが、一ノ関圭の絵の凄みには及ばない(一ノ関は「日本でいちばん絵のうまいマンガ家」の最有力候補だから、比べるのは酷)。

■関連エントリ→ 一ノ関圭『鼻紙写楽』

 また、杉浦日向子作品の心地よい力の抜け具合、余白の絶妙な使い方に比べ、崗田屋は1ページの中に情報量を詰め込みすぎ(文字が多すぎるし、コマ割りもやや細かすぎ)で、読んでいてちょっと暑苦しい。
 
 だが、そのように先行作品と比べさえしなければ、これはこれで素晴らしいマンガである。

 物語のタテ軸は、浮世絵が好きでたまらない富裕な商人・遠州屋佐吉(実在の人物)と国芳が出会い、それを機に国芳が才能を開花させ、世に認められていくプロセス。
 そこに、殺人や役人の汚職などの事件がからんでヨコ軸となり、ダイナミックにストーリーが展開していく。

 市川団十郎(七代目)や遠山の金さん、鼠小僧次郎吉などというおなじみのキャラが重要な役どころで登場するなど、読者を飽きさせない工夫も随所にある。
 私のように浮世絵について門外漢でも、十分に楽しめる大人のエンタテインメントだ。

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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