上野洋子『Puzzle』


PUZZLEPUZZLE
(2002/01/23)
上野洋子

商品詳細を見る


 ザバダックは最初期にはトリオだったが、ほどなく吉良知彦と上野洋子の2 人組ユニットとなり、のちに上野が脱退。現在は吉良知彦のワンマン・バンドとして活動中である。

 その上野洋子の2枚目のソロ・アルバム『Puzzle』(ビクター/2700円)を、買ってきた。

 上野さんはきっと覚えていないだろうけれど、私は13年ほど前にザバダックのインタビュー記事を書いたことがある。「ザバダックの最高傑作」の誉れも高い名盤『遠い音楽』発表当時のことである。
 デビュー当時のザバタックのキャッチコピーには「銀河の妖精・上野洋子」という一節があったが、たしかに彼女は妖精めいて美しかった。

 そのインタビューの際、「究極の名盤を1枚だけ選ぶとしたら?」という質問をしたとき、吉良・上野の2人が揃ってケイト・ブッシュの『ドリーミング』を挙げたことが、印象に残っている。
 『ドリーミング』は、ケイトのアルバムのなかで最もエキセントリックな1枚。72トラックもの多重録音で音を分厚く塗り重ねた、狂気を孕んだ幻惑的なサウンドが魅力だった。

 この『Puzzle』も、どこか『ドリーミング』を彷彿とさせる作品である。
 声の多重録音によるヴォーカリーズ(歌詞を歌うのではなく、声を楽器のように用いる)・アルバムなのだが、同じように多重録音ヴォイスを中心としたエンヤの作品のような“癒し系”の音ではけっしてない。
 上野自身のコメントにあるように、「ヒーリングでα波出そうかなと思っていたらアドレナリン出ちゃったみたいな」感じのアルバム。

 1曲平均20トラック以上の声を重ね、声と声をまさにパズルのようにつなぎ合わせて作った、複雑精妙な音の万華鏡。上野のハイトーン・ヴォイスが美しい。だが、その美しさのなかに冷たい狂気を孕んだ音。



 上野の最初のソロ・アルバム『VOICES』(1993年)も、同じように多重録音によるヴォーカリーズだった。しかし、2枚のアルバムを比較してみれば、楽曲のクオリティも、声の重ね方の緻密さ・複雑さも、この『Puzzle』のほうが数段上である。

 クリスマス・シーズンになると、街はきらびやかなイルミネーションであふれる。この『Puzzle』は、一言でいえばそのイルミネーションのような音。クリスマス・ソングのような心浮き立つ楽しさはないけれど、雪の街を飾る電飾のような“きらびやかな冷たさ”に満ちている。「大人のためのクリスマス・ミュージック」として、オススメ。
関連記事

トラックバック

コメント

pianissimoさま

はじめまして。
教えていただき、ありがとうございます。
こんど、ぜひ買って聴いてみたいと思います。
しかし、上野洋子さんももう活動20周年なんですねー。
  • 2007-04-14│03:42 |
  • 前原 URL│
  • [edit]
上野洋子さんの新譜
はじめまして。上野洋子さんのライブ盤CDが発売中、DVDが4/25発売です。興味ありましたら是非。山野楽器で購入すると特典があります。
  • 2007-04-13│14:29 |
  • pianissimo URL
  • [edit]

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。56歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

ブクログ・MY本棚

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
40位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
28位
アクセスランキングを見る>>