スティーリー・ダン『エヴリシング・マスト・ゴー』

エヴリシング・マスト・ゴーの画像


 スティーリー・ダンがキャリアのピークを極めたのは、『幻想の摩天楼』『彩/エイジャ』『ガウチョ』という驚異的な傑作が3作つづいた70年代後半~80年代初頭だった。超一流のスタジオ・ミュージシャンを惜しげもなく起用し、曲ごとにミュージシャンを替えて、精緻な工芸品を思わせるゴージャスなサウンドを築きあげた。

 全盛期の3作を私はいまでも時折引っ張り出して聴くが、何度聴いても飽きない。汲めども尽きぬ泉のような魅力をもつ名作群。
 また、その後に出たドナルド・フェイゲンの初ソロ『ナイトフライ』も、『エイジャ』などに勝るとも劣らぬ出来栄えだった。
 しかし、フェイゲンのソロ第2弾『カマキリアド』と、スティーリー・ダンの復活作『トゥー・アゲインスト・ネイチャー』は、いずれも印象の薄い凡作であった。

 彼らの3年ぶりの新作『エヴリシング・マスト・ゴー』(ワーナー/2400円)は、『トゥー・アゲインスト・ネイチャー』よりは随分ましである。「お、かなり持ち直したな」という感じ。とくにアルバム後半にいい曲が並んでいる。

 しかし、メンバーのフェイゲンとウォルター・ベッカーが自ら演奏する比率が高くて、「超一流のミュージシャンを山のように起用し、たった一つのフレーズのために高額のギャラを蕩尽する」というスティーリー・ダンの方法論が今回は使われていない。
 たとえば、ベース・ギターはベッカー1人が最初から最後まで弾いている。スタジオ・ライヴ一発録りで作られたのだそうで、その分バンド・サウンド的なノリのよさはあるけれど、いささかラフな印象は否めない。

 スティーリー・ダンも、デビュー当時にはごく普通のバンドであった。そのうちメンバーが1人抜け、2人抜け、とうとうフェイゲンとベッカーの2人だけが残った。そのとき彼らが選んだ道が、新しいメンバーは補充せず、一流スタジオ・ミュージシャンを適材適所で起用してアルバムを作りこむプロデューサー的役割に徹する道であったのだ。

 つまり、今回のアルバムは、デビュー当時のバンド・サウンドを再び目指した原点回帰の作品なのである。もっとも、「ニューヨーク産ウェストコースト・サウンド」と評されたデビュー作『キャント・バイ・ア・スリル』のころほど爽やかな音ではない。『プレッツェル・ロジック』や『うそつきケティ』のころに近い印象。

 ラストを飾るタイトル・ナンバーは絶品。コルトレーンばりの渋いイントロから始まるジャジーなバラード。この1曲があることで救われている。
 アルバム全体に言えることだが、今回はサックスが群を抜いていい。ウォルト・ワイスコフという人がほとんど1人で吹いている。このプレイヤー、要注目である。

 逆に、よくないのがギター(ベッカーが弾いている曲多し)とドラムス。「エイジャ」の終盤でスティーヴ・ガッドが叩きまくった一世一代の超絶ドラムとか、「緑のイヤリング」の背筋ゾクゾクもののギターのような値千金のプレイが一つも見当たらない。

 でもまあ、それは「スティーリー・ダンのアルバムにしてはよくないなあ」ということであって、総体的には水準以上の出来である。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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