ダディ・グース『少年レボリューション』

少年レボリューション―ダディ・グース作品集少年レボリューション―ダディ・グース作品集
(2003/04)
ダディ・グース

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 作家の矢作俊彦がかつてマンガ家をしていたことは、知る人ぞ知る事実である。

 「マンガ家をしていた作家」は、ほかにもいる。
 たとえば山田詠美は作家デビュー以前に「山田双葉」名義でマンガを描いていたし、小松左京も最近マンガ家時代の幻の作品集を刊行した。荒俣宏も、マンガ評論集『漫画と人生』(集英社文庫)の巻頭をかつて自分が描いたSFマンガで飾っている。
 まあ、小説家を志すような少年少女ならまずマンガにハマるのがお決まりのコースだから、べつだん不思議はない。

 山田詠美や荒俣宏のマンガが、彼らの小説のような高い評価を得ることなく消えていったのに対し、マンガ家時代の矢作の作品は一部で高く評価されてきた。
 当時のペンネームはダディ・グース。1960年代末に彗星の如く登場し、『漫画アクション』を中心に20編あまりの作品を発表し、70年代半ばにはあっけなく消えていった。単行本はこれまで1冊も刊行されておらず、まさに「幻のマンガ家」であった。ダディ・グース名義のマンガ原稿はすべて散逸して残っておらず、単行本化は不可能と言われていた。
 
 だが、そのダディ・グースの作品集が、30年の時を経て初めて刊行された。『少年レボリューション/ダディ・グース作品集』(飛鳥新社/2500円)がそれだ。
 筋金入りのマンガ・マニアとして知られる飛鳥新社の名物編集者・赤田祐一が、当時の掲載誌からそのまま版を起こす形で単行本化を実現させたのだ。ただし、原稿の修正作業がていねいになされており、雑誌から版を起こしたことを読者に意識させない。この作品集には、ダディ・グースの作品の過半が網羅されている(11編収録)。

 単行本の帯には、かつて傑作『気分はもう戦争』で矢作と組んだ大友克洋が、「ダディ・グースを読みなさい」との簡潔きわまる(笑)推薦の辞を寄せている。
 じつは私もダディ・グースの作品を読むのはこれが初めてだが、絵は当時の水準をはるかに超えている。緻密な描き込み、精緻なメカ描写、映画的でダイナミックな構図やコマ割り……ダディ・グースは、大友克洋の出現に先駆けた作家だったのだ。

 宮谷一彦や真崎・守あたりの劇画からの影響も感じられるが、映画やアメコミからの影響と渾然一体となって、誰の真似でもない独自の世界が構築されている。

 では、ストーリーはどうかといえば……ない(笑)。「新感覚ハードボイルド」と評された初期の矢作作品を劇画化したような内容を期待すると、肩透かしを食う。

 唯一はっきりしたストーリーがあるのは、冒頭に収録された「神様の代理人」のみ。矢作ファンならピンとくるだろう。初期の代表的短編「神様のピンチヒッター」の原型となった劇画バージョンである。ストーリーは小説版とほとんど同じ。これはカッコイイ。

 矢作はのちに、「神様のピンチヒッター」を自ら監督してVシネマ化もしている(ちなみに主演は江口洋介)。マンガにし、小説にし、映画にもし……と、よほどこの作品に思い入れがあったと見える。

 ほかの10作品はいずれも、ストーリーらしきものが見当たらない。「壮絶奇怪なるポリティカル・オペラ」(帯の惹句より)である。
 たとえば、「馬鹿ばかしさの真っ只中で犬死にしちゃうための方法序説」なる一編は、ジャン・ポール・ベルモンドとキングコングと月光仮面が登場し、日本の国会議事堂周辺でドタバタ活劇をくり広げるというムチャクチャな話。アメコミとゴダールの映画と佐々木マキのマンガをミックスしたような、得体の知れない混沌が渦巻く作品である。その混沌具合がなんともエレガントでカッコイイ。

 表紙はおろか、中のあとがき等にもいっさい矢作の名は登場しない。このへん、いかにも矢作らしい。
 ダディ・グース名義で書かれたあとがきが、矢作らしくないしみじみとした文章で、たいへんよい。18歳でマンガ家デビューを果たしたときの恩人である清水文人氏(当時『漫画アクション』編集長)の思い出が綴られている。

 あの日、私の人生はきっと音を立てて開かれたのだ。開いたのは清水さんである。その清水さんはもういない。双葉社の社長を務められたあと、勇退して、念願だった「昆虫館」を故郷の長野につくられた。開館して一年足らず、病に倒れ亡くなられた。清水さんは幼時からクワガタの収集家でもあった。昆虫館には数千種に及ぶ標本が展示されている。私の漫画は、あの日の清水さんに、珍種のクワガタのように見えたのかもしれない。そうだったらどれほど幸福だろう。それなら、たとえどのような恥ずかしさでも我慢できるというものだ。

 

 2500円という値段はマンガ単行本としては異例の高さだが、矢作ファンおよびマンガ・マニアにとっては相応の価値がある1冊である。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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