藤原帰一『「正しい戦争」は本当にあるのか』


「正しい戦争」は本当にあるのか「正しい戦争」は本当にあるのか
(2003/12/03)
藤原 帰一

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「ラヴ&ピースだけじゃダメなんだ」
 ――帯に書かれたそんな挑発的な惹句に誘われて、藤原帰一著『「正しい戦争」は本当にあるのか』(ロッキング・オン/1600円)を読んだ。

 気鋭の国際政治学者(東大大学院教授)へのロング・インタビューをまとめた「語り下ろし」。
 これは、示唆に富んだ素晴らしい本だ。ワタシ的には五つ星。

 全6章のタイトルを列挙してみよう。

 1.「正しい戦争」は本当にあるのか
 2.日本は核を持てば本当に安全になるのか
 3.デモクラシーは押しつけができるのか
 4.冷戦はどうやって終わったのか
 5.日本の平和主義は時代遅れなのか
 6.アジア冷戦を終わらせるには

 きな臭い世界情勢のなか、にわかに切実さを増したこれらの根源的な問いに、著者は明快に答えを出していく。もう、目からウロコ落ちまくりである。

 自衛隊のイラク派遣(派兵)問題をめぐっては、「反対派=青臭い理想主義者、賛成派=オトナの現実主義者」と立て分けるムードが醸成されつつあるような気がする。

 だが、その二分法は藤原にはあてはまらない。
 彼はイラク派兵にも昨今のアメリカのやり口にも原則反対ではあるのだが、その姿勢を支える論理はこのうえなく現実的で、イデオロギッシュな感情論が微塵も混じっていない。本書の副題にいうとおり、「論理としての平和主義」なのだ。

 問題のありかを歴史的背景から説き起こし、冷静な現状分析を踏まえて腑分けする手際が鮮やかだ。〝藤原版『そうだったのか! 現代史』〟という趣もある。

 「平和はお題目じゃない。必要なのは祈る平和じゃなくて、作る平和です」
 ――これは本書の結びの一文だが、この言葉どおり、藤原は現実をしっかりと見据えたうえで、「武力を必要としない状況」を一歩一歩作っていくための方途を、真摯に探っている。

 私の目からウロコを落とさせたくだりを、いくつか拾ってみよう。

「アメリカは軍事経済に依存してるんだから、そこから脱却できないっていう議論が昔からありましたけど、ぼくは必ずしもそうは思いません。むしろ軍事に頼る経済は、政府の注文に頼る経済なので、競争にさらされていない、弱いんです」

「米軍の規模を抑制するうえで一番役に立つのはアメリカ国内の世論なんですね。アメリカってのは外国よりも国内の意見を聞く国ですから」

「軍事的な合理性からいっても、いまの米軍はほとんどいらない。(中略)それは、米軍が冷戦期の緊張を前提として作られ保持された機構だからです。現在の米軍はソ連の兵力を想定して作られている」

「核は使われない時期がこれだけ長続きしたから、使うことができない兵器だと誰もが思うようになってますけど、それは間違いです。核は使えない兵器ではなく、大規模な兵器にすぎません。(中略)冷戦後の核っていうのはその意味で、核が抑止の兵器から使える兵器に変わりつつあるっていう状況の転換になります」

「(憲法九条は日本の武装解除のために作られた条項だから)外から見ますと、日本国憲法と日米安保条約のふたつが日本の軍事行動を抑え込むものであり、敢えていえば、憲法よりも安保条約こそが日本の軍事的な単独行動を抑えていると考えた」
「欧米やアジアに行くと、日本の平和主義なんて誰も知らない」

 インタビュアーは、渋谷陽一と鈴木あかね。
 鈴木はロッキング・オンで通訳・翻訳などを手がけている女性だが、一橋とケンブリッジの大学院で国際政治を学んだという、聞いただけで恐れ入ってしまうような経歴の持ち主。

 以前、『現代ロックの基礎知識』という鈴木の著書(ロッキング・オン/99年刊)を読んだときから「ただ者ではない」と思っていたが、本書でも鋭いツッコミ連発で、藤原と対等に伍している。インタビューというより対論に近い部分すらある。

 テーマの重さとは裏腹に、「(笑)」が随所に登場するなどテンポは軽快で、読みやすい。それでいて、中身はすこぶる濃い。脚注もていねいで、理解を助ける。
 また、国際政治学の基礎と最先端の論調をわかりやすく伝える、優れた啓蒙書としても読める。

 イラク派兵問題に関心のあるすべての人に(「関心ない人なんていないだろ?」と思うかもしれないが、藤原も嘆くとおり、派兵に賛成でも反対でもなく「無関心」な層が多数派であるのが、日本の現状だ)、立場を越えて一読をすすめたい。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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