『ミスター・グッドバーを探して』

 ジュディス・ロスナー著『ミスター・グッドバーを探して』(ハヤカワ文庫)読了。

 ヒットした同名映画(1977年)の原作で、この小説自体、1975年にベストセラーになっている。
 私は、映画はずっと前に観ているが、いま書こうとしている小説(なんか恥ずかしいけど)の参考にしたい点があって、原作の小説を読んでみたかった。図書館の保存庫からわざわざ出してきてもらった。

 いわゆる「東電OL殺人事件」が起こったとき、被害者の女性を『ミスター・グッドバーを探して』のヒロインになぞらえた人は多かった。
 昼は大企業の管理職をつとめる独身キャリアウーマン、夜は渋谷のホテル街にたたずむ娼婦――という被害女性の衝撃的な人間像は、たしかにこの小説のヒロインを彷彿とさせる。

 ヒロインのテレサは娼婦でこそないが、昼は真面目な独身教師、夜はマンハッタンのシングルズ・バーで男を探しては行きずりの関係を結ぶという、2つの顔をもつ孤独な女性なのである。

 テレサの少女時代から説き起こす前半は、退屈の極み。しかし、彼女がシングルズ・バーに入り浸るようになる後半から、俄然面白くなる。

 どうせなら後半部分だけで構成すればよかったのに、と思った。
 が、30年近く前のアメリカでこの小説が受け入れられるためには、退屈な前半部は不可欠だったのだろう。「マジメな女教師が夜ごとボーイハントをするようになるまでには、じつはこんな紆余曲折があったのですよ」と、懇切丁寧に説明して読者を「納得」させる必要があったのだ。

 この小説は、30年前の発表時より、いまの我々のほうが理解しやすいだろう。普通のOLやマジメな主婦たちがさまざまな出会い系ツールを駆使して〝もう1人の自分探し〟をすることが、ごくあたりまえに行われているいまのほうが……。
 これは、昨今ポツポツ現れている、〝出会い系〟の世界を描いたフィクションの先駆け・原型である。

 行きずりの男との逢瀬をいくら重ねてもけっして癒されない、ヒロインの根深い孤独――それをえぐり出す繊細な心理描写が素晴らしい。
 ハードボイルド・ミステリの翻訳でいい仕事をつづけてきた小泉喜美子が訳を手がけているのも、まさにうってつけ。小泉自身、美しく孤独な都会の女性として生き、最後には夜の街で命を落としたのだから(殺されたわけではないが)。

 印象に残ったくだりを、いくつか引いてみよう。

「彼女は生きていく方便としてその身辺を秘密で包んでいたのだ。(中略)そのカムフラージュは必要品であり、同時に心地よくもあり、また、堅固な砦でもあったのだ」

「それはまるきりの嘘というわけではなかったが、彼女が彼に言った言葉のうちではいちばん嘘に近いものだった」

「『あなたはぼくにじつに冷たいんですね。どうしてなんですか?』
 あなたが私を好きになりすぎているからよ、という答が彼女の頭に浮かんできた」

「きっと、彼もヴィクターと同じなのだろう。彼女のまわりに、現実の彼女とはなんの関係もない精巧な幻想を組み立てているのだろう」

 ――これらの引用文をタイトルを伏せたまま並べ、「2003年に発表された、『出会い系』の世界を描いた日本の恋愛小説の一節だ」と言ったら、たいていの人は信じてしまいそうだ。

 映画のほうは、はるかな昔に観たので、主演のダイアン・キートンが行きずりの男にめった刺しにされる無惨なラストシーンしか記憶にない。
 だから映画と比べて評価はできないが、内面描写が多い作品だけに、小説のほうが深いところまで描けているのではないか。
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コメント

ボク 今日 会社を風邪で熱が出たとウソ言ってズル休みしました
はじめまして。前原さん
たまにはと いけないと思いつつも 風邪と言って ズル休みしちゃいました(笑い^_^;)

>昼は大企業の管理職をつとめる独身キャリアウーマン、夜は渋谷のホテル街にたたずむ娼婦――
 この事件は ボクが新社会人になって数年くらい経ってからでしたか・・テレビのニュースで流れてたのを覚えてます。

 そういえば 故ケンラッセル監督の「クライムオブパッション」の主演の女優キャスリンターナーが演じた役
”昼はデザイナー 夜は娼婦”の二重生活を思い出しました。

さて、「ミスターグッドバーを探して」

ウィキペで調べましたら73年に発生したロズアン・クイン殺人事件が元になってました。

映画もほぼ同じですね。

が、現代の視点でみたら
「そんなアブないやつ 普通にいるじゃん」って言う人も多いでしょう。けど 70年代の女性解放運動が盛んな時期。女性が自活し仕事をこなし 自由な生活を謳歌する反面 こういう危険もでてくる。イカレた男たちの餌食になってしまう危険も人間社会の怖さでしょう。

むろん、これが逆のケースで危険な女も いたかも・・・

この映画見て 教訓に思ったこと
”知らない人にはついていないようにしよう・・・”
子供のころ 親や先生に言われたコト・・・
大人になっても守ったほうがいい・・・どうでしょうか?

 
  • 2014-02-19│00:45 |
  • zebra URL│
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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