アーサー・M・ アーベル『我、汝に為すべきことを教えん』


我、汝に為すべきことを教えん―作曲家が霊感を得るとき我、汝に為すべきことを教えん―作曲家が霊感を得るとき
(2003/09/01)
アーサー・M. アーベル

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 アーサー・M・ アーベル著、吉田幸弘訳『我、汝に為すべきことを教えん』春秋社/2800円)読了。

 アメリカの音楽雑誌の欧州特派員であった著者が、19世紀末から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパの名高い作曲家6人に対して行ったインタビューをまとめた記録である。約一世紀前に書かれ、本国アメリカでは半世紀前に出版された。

 登場する作曲家は、ブラームス、リヒャルト・シュトラウス、プッチーニ、グリーグ、エンゲルベルト・フンパーディンク(「ラスト・ワルツ」を歌った同名の歌手とは別人)、マックス・ブルッフ(誰? 私はまったく知らない)の6人。

 「作曲家が霊感を得るとき」という副題のとおり、インタビューのテーマは、「偉大な作曲家たちは創造のためのインスピレーションをどのように得ていたか? そして、そのインスピレーションの源泉とは何か?」である。

 ここでいう「霊感/インスピレーション」とは、現代の我々が使うような「ひらめき」という軽いニュアンスではない。本来の字義どおり、人知を超えた存在から口授される「霊感」の謂である。

 登場する6人はいずれも、霊感は「神(詩神=ミューズ)から与えられるもの」だと確信している。邦題も、旧約聖書「出エジプト記」の一節である。
 
 私は、「インスピレーションをつかむノウハウ」がちりばめられた本ではないかと期待して読んだのだが、その期待は思いっきり外れた。「一歩間違えばオカルト」な内容の本である。

 だが、だからつまらないかといえば、意外にそうでもない。
 芸術を創造するとはどういうことなのか――その意味をしみじみ考えさせる本であり、その一点で面白く読めた。 

 登場する作曲家の何人かは、口をそろえて、「真の霊感を得ている作曲家は、世の作曲家の中でもごく一部だ」という。
 たとえばシュトラウスは、「(霊感を得て作曲している者は)私の見解では五パーセントにも満たない。今日の音楽作品の九五パーセントは純粋に知的なもので、その結果短命だ」と喝破する。これは、いまどきの音楽についてもしかりではないか。

 ハイドンは、作曲を始めるときには一番の正装をしたという。「これから神と交わるのだ。それに相応しく装わねばならない」と……。彼にとって、「作曲することは礼拝の一形式」であり、詩神を呼び出すための儀式であったのだ。

 また、プッチーニは、彼が作曲中に話しかけて邪魔した神父に向かって、こう怒ったという。
「おい神父さん、もし作曲中にもう一度邪魔したら、あんたに誓って言うが、カトリック教会とは手を切ってプロテスタントになるよ」

 すると、神父は十字を切って言う。
「私は、あなたにそんなことを言わせる悪魔を追い払うために十字を切っているのです」
 だが、プッチーニは言い返す。
「ミサや告解に出席する他にも神と交わる方法はある。作曲中の私は、神が近くにおられ、私がしていることを良しとされているのを感じるのだ」

 いいなあ、このエピソード。

 もう一つ、「ペール・ギュント」の作曲家グリーグが著者に語った、シビレる名セリフを引いておこう。

「我々作曲家は、有限なるものに対して無限なるものを投影する器(プロジェクター)なのだ」

 ところで、我々ライターはインスピレーションなど待たない。そんなものを悠長に待っていたらシメキリに間に合わないからである。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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