ウソの愉しみ


甘えんじゃねぇよ! (ちくま文庫)甘えんじゃねぇよ! (ちくま文庫)
(1999/12)
吉田 戦車

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 スティグマイヤー名倉さんの「プチ日記」といえば、いまさら紹介するまでもない超人気ウェブ日記である。
 私も大ファンだ。「ヘタレ」を芸にまで高めた点がスゴイ。

 昨夜も、1月24日付の次の一節がツボにはまって、1人で爆笑してしまった。

 職場の先輩に一児(小学生)の母であるCさんという女性がいる。
 Cさんは我が子に「アンコの入っているタイヤキは『当たり』なのよ」とウソを教え続けているらしい。するとタイヤキを食べるたびに「当たりだ、やったー!」と喜ぶことになる。日常の中に小さな幸せを、というのが彼女の方針らしい。



 うーむ。なんだか吉田戦車の初期傑作『甘えんじゃねぇよ!』に出てくる「みっちゃんのママ」のようだ。

 「みっちゃんのママ」は、幼稚園に通う愛娘・みっちゃんにウソを教えることを生き甲斐にしているというすごいキャラ。
「白熊は熊の年寄りで、北極は全世界の熊のうばすて山だ」
「キリンの首はとても長いので、アフリカの飛行機は常にキリンに気をつけて飛ぶ」
 などというウソを娘に信じ込ませることに命を賭けている(笑)のである。

 読み返してみたらやっぱりすごく面白かったので、あと1つ引用。

「ママ、どうして象の鼻は長いの?」
「それはね、みっちゃん。実は生まれたばかりの象の鼻は短いのよ!」
「えーっ! ホント?」
「それをアフリカの屈強な大男がギューッと引っぱるの!!
 小象が泣こうがわめこうが、ギュギュギュギュ~~~っとね!!」



 わはははは!
 そういえば、子どものころ、キプリングの「象の鼻はなぜ長い」って童話を読んだなあ(その童話の「答え」は吉田戦車とはちがいます。念のため)。

 人を傷つけるウソは論外としても、こういう「笑えるウソ」はいいですな。こういうのばかり集めて本ができないものか、と考えたりする。

 もっとも、アメリカになら、古今東西のウソばかりを集めた本はすでにあり、邦訳もされている。M・ハーシュ・ゴールドバーグ著『世界ウソ読本』(文春文庫)である。これもなかなか愉しい本であった。

 この本に取り上げられているウソを、一つだけ紹介しよう。

 あなたがいま向かっているパソコンのキーボードは、アルファベットが「ABC…」ではなく「QWERTYUI……」という配列になっていることと思う。

 19世紀アメリカでタイプライターを発明したクリストファー・レイサム・ショールズによれば、「科学的な研究を重ね、いちばん早くタイピングできる配列にした」のだという。

 しかし、この説明は真っ赤なウソだった。

 当初ABC順の配列でタイプライターを試作したところ、早く打とうとするといくつかのキーとキーが絡まってしまうことがわかった。そこで、「絡まり防止」のため、並んで使われることが多い文字と文字を離した……というのが、あの奇妙な順番が生まれたホントの理由なのである。

 当然、現代のキーボードでは「キーとキーが絡まる」などということはない。にもかかわらず、ショールズのウソのせいで、我々は覚えにくい奇妙な配列のキーボードを使いつづけているというわけだ。

 私がいま思いつく愉しいウソというと、たとえば、1980年代の青春をオシャレに活写した岡野玲子のマンガ『ファンシィダンス』で、ヒロインが主人公のナンパをかわすためについたウソ。

「じゃあ、新宿駅の北口で待ってるわね」



 ヒロインはそう言うのだが、新宿駅に「北口」はないのである。

 こういう愉しいウソを、意識的に集めてみようかな。

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QWERTY配列に対する誤解

アルファベット2文字の組み合わせのうち、英語では「th」を続けて打つことが最も多いのだが、この2字はQWERTY配列では非常に近接して並べられている。その次が「er」+「re」だが、これもQWERTY配列においては近接している。キーボード上で離れてなどいない。...

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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