竹熊健太郎『マンガ原稿料はなぜ安いのか?』

マンガ原稿料はなぜ安いのか?―竹熊漫談マンガ原稿料はなぜ安いのか?―竹熊漫談
(2004/02)
竹熊 健太郎

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 竹熊健太郎著『マンガ原稿料はなぜ安いのか?』(イースト・プレス/1200円)読了。

 かつて、相原コージと組んで「メタ・マンガ(マンガを描くことについてのマンガ)」の大傑作『サルでも描けるまんが教室』を大ヒットさせた、あの竹熊健太郎の新著である。

 少し前、『噂の眞相』の記事に「竹熊健太郎は最近仕事がなく、警備員のバイトをして食いつないでいる」という一行があった(ホントかどうかは知らない)。
 また、離婚をし、膨大なマンガ・コレクションの一部を売却してそのための引越し代を捻出したと、これは竹熊自身がコラムで書いていた。
 要は悪い話ばかりが耳に入ってきたのだが、この新著を読むかぎり、当の竹熊は意気軒昂のようである。慶賀に堪えない。

 誤解されやすい書名だ。べつに原稿料の話ばかりが書かれているわけではなく、収められた文章の多くはまっとうなマンガ評論である。

 ただ、原稿料の話には誰しも興味があるものだから、アイキャッチとしてこの書名にしたのは「売る戦略」としては正しい。じっさいには、原稿料の話は最初のほうに出てくるだけなのだが……。

 マンガ家が儲かるのはコミックスが大売れして印税が入ってこそであって、原稿料だけなら食うのがやっと――それくらいは私も知っていたが、本書でセキララに明かされたマンガ家の経済収支には、私も驚かされた。
 たとえば、業界用語でいう「連載貧乏」(=駆け出しのマンガ家がヘタに連載をもつと、アシスタント代やら何やらのせいで、かえって貧乏になる)の実態について、「必要経費・利益概算」まで示して詳述しているのである。

 だが、本書の価値はそうした業界内幕話にのみあるのではない。

 帯の惹句には、「マンガのタブーを教えましょう! 竹熊健太郎が捨て身で語る爆笑エッセイ」とある。もっとも、「捨て身で語る」「タブー」というほどの暴露はないし、それほど「爆笑」できるような内容でもない。

 むしろ、冒頭に置かれた原稿料話のあとに収録された数々のマンガ評論のほうが、読みごたえがある。
 マンガ業界の現状を鋭く批判した提言あり、マンガ原作者としての体験をふまえた「原作論」あり、作家・作品論あり……と多彩な内容だが、いずれも真摯な、そして意外なほど正統的なマンガ評論である。

 私は竹熊について、正直なところ評論家としては評価していなかった。「マンガにくわしい小器用なライター」としか思っていなかったのだ。
 だが、本書を読んで認識を改めた。本書には「竹熊漫談」と副題がついているが、そんなくくり方で売ってしまうことが惜しまれるほど、立派なマンガ評論集である。

 とくに、「Part3 マンガ作家の話」に収められた宮崎駿論、赤塚不二雄論、楳図かずお論は、それぞれ独創的で見事な作家論となっている。
 たとえば、楳図かずおの諸作品について、「『母』の存在こそは楳図作品の基調テーマ」だと喝破し、これまで誰も試みなかったその角度からのアプローチを展開している。そして、次のように言う。

「この強烈な『母の愛』こそが『漂流教室』を支える求心力の原点だ。これはたんに現実の愛を描いたものではない。愛にもし内臓があるのなら、楳図はその『内臓』をも描くのだ」

 最後の一文など、なかなかシビレるフレーズではないか。「サルまん」でアホなことばかりやっていたあの竹熊に、こんな評論が書けるとは思いもよらなかった。

 マンガ好きなら絶対に楽しめる1冊。
 ちなみに最後の章では、「サルまん」の内幕もセキララに語られている。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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