『ほたるの星』


ほたるの星 [DVD]ほたるの星 [DVD]
(2004/12/22)
小澤征悦、山本未來 他

商品詳細を見る


 実話を元にした映画である。
 主人公の小学校教諭・三輪元(小沢征悦)のモデルとなったのは、山口県の瀧口稔さん。工業高校を卒業して就職した瀧口さんは、働きながら大学の通信教育部に学び、教員採用試験に合格した。

 赴任先の小学校の校庭には、荒れ果てて真っ黒に淀んだ池があった。担任クラスの子どもたちに「ここにホタルが飛んだら、きれいやろうねえ」と何気なくつぶやくと、子どもたちは「先生、それってすごいねえ! 絶対やろうよ!」と歓声を上げた。

 そこから、瀧口さんと子どもたちの奮闘が始まった。池をきれいにし、ホタルの卵を手に入れ、日々のエサ(ホタルの幼虫はカワニナしか食べない)を確保し……。瀧口さんは、ホタルの世話のために学校のそばに引越してまで、ホタルの飼育に心血を注いだ。そして翌年、たくさんのホタルが池のまわりを舞い飛んだのだった。

 映画はかなり脚色されているものの、ホタルの飼育過程はほぼ事実の再現に近い。また、「Berryz工房」の菅谷梨沙子が演じる比加里と教師のふれあいがストーリーの核となるのだが、これも、心を閉ざした女子生徒がホタルの飼育を通じて蘇生していった事実に基づいている。

 監督・脚本は、大ヒット作『ぼくらの七日間戦争』で知られる菅原浩志。
 菅原は、阪神大震災後に防災意識啓蒙を目的に制作された『マグニチュード/明日への架け橋』や、覚醒剤の恐ろしさを訴えた『DRUG』など、啓蒙的な映画を手がけてきた。この映画もまた、それらの作品の延長線上にある。

 ホタルの飼育という難事に教師と生徒が挑戦していく姿を通して、監督は、教育現場の荒廃や悪化の一途をたどる環境破壊などの現実の流れに歯止めをかけようとしている。教育の中に希望の光を見出そうと、観客に呼びかけているのだ。
 とはいえ、けっして説教臭い映画ではなく、素直に感動できる佳編である。

 菅原監督は、「ホタルが舞うとき、いちばん会いたい人を連れてくる」という美しい伝説を自ら創作し、それによって実話に鮮やかな色を添えている。
 母親の病死と父親の暴力によって心を閉ざした比加里は、「ホタルが舞いよるとき、一番会いたい人に会えるんよ。おばあちゃんがそう言っていた」というクラスメートの一言によって、ホタルの飼育に真剣に取り組むようになる。亡き母親と会いたい一心で。

 教師と生徒たちのさまざまな苦労の末、無事に育ったホタルが乱舞するラストシーンは、感動的だ。舞い飛ぶホタルのなかに、比加里は亡き母の幻影を見、教師は自らの恩師の幻影を見る。
「いちばん会いたい人をホタルが連れてきた」のだ――。
 余貴美子が演じる幻の母は比加里を優しく抱擁し、役所広司演ずる幻の恩師は教師に言う。「これでやっとお前もほんとうの教師になれたな」と……。ここが、この映画の一番の“泣きどころ”である。

 モデルとなった瀧口稔さんは、「教育とは、魂に光を点すことである」という言葉を教師としてのモットーとしてきたという。舞い飛ぶホタルの光は、人々の魂に光を点す教育の価値の象徴であるかのようだ。

 ホタルを蘇らせることで、そこにかかわった人々もまた蘇生していくという、美しい物語。素朴だが好感のもてる映画である。
関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

ブクログ・MY本棚

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
27位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
22位
アクセスランキングを見る>>