「YES オノ・ヨーコ展」

オノヨーコという生き方WOMANオノヨーコという生き方WOMAN
(2006/10)
アラン クレイソンロブ ジョンソン

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 「東京都現代美術館」で開催中の「YES オノ・ヨーコ展」を観た。

 私もご多分にもれずジョン・レノン経由でオノ・ヨーコを知ったクチだが、いまではジョンうんぬんを抜きにして「アーティストとしてのオノ・ヨーコ」が大好きである。
 やっぱすごいですよ、この人。うちの母親と同い年だが、あの世代の女性があんなに自由な生き方をするなんて……。自分の母親と引き比べることで、いっそうすごさがわかる。

 誤解されがちだが、オノ・ヨーコはジョン・レノンと結婚したから有名になったわけではない。ジョンと出会う以前から、すでに前衛アーティストとして確固たる地位を築いていたのだ。かりにジョンと結婚しなかったとしても、彼女はアート史に名を遺したであろう。

 オノ・ヨーコの初期の代表作『グレープフルーツ』は、私の大好きな本だ。「インストラクション・アート」と呼ばれるたぐいの作品で、さまざまな言葉による指示(インストラクション)が「作品」になっている。

 本の中にあるさまざまなインストラクションは、それ自体が詩のように美しい(じっさい、「詩集」として紹介されることも多い)。「好きな詩集を1冊だけ挙げよ」と言われたら、私はこの『グレープフルーツ』を挙げたい。

 たとえば、こんなインストラクションがある。

「月の匂いを嗅ぎなさい」

「地球が回る音を聴きなさい」

「雲を数えなさい。雲に名前をつけなさい」

「キャンバスに2つの穴をあけなさい。そして、空の見えるところにそれをかけなさい」

 ちなみに、最後のインストラクションには「空を見るための絵画」というタイトルがついている。空は、『グレープフルーツ』にかぎらず、オノ・ヨーコの作品にくり返し登場するモティーフである。
 「空の美しさにかなうアートなんてあるのだろうか」と、彼女はかつて述べたことがある。

 『グレープフルーツ』は、以前『グレープフルーツ・ブック』というタイトルで邦訳が出ていたが(新書館/田川律訳)、これはいまでは入手困難だ。むしろ原書のほうが、アマゾンなどでかんたんに手に入る。

 また、『グレープフルーツ』の中から50あまりのインストラクションを厳選し、我が国一流の33人のフォトグラファーの写真とコラボレーションさせた『グレープフルーツ・ジュース』という本もある(講談社文庫)。これもいい本だし、入手しやすいのでオススメ。

 なお、ジョン・レノンが『グレープフルーツ』にインスパイアされて名曲「イマジン」を作ったという話は、よく知られている。
 「想像しなさい(イマジン)」という言葉は、『グレープフルーツ』にくり返し登場するのだ。
「想像しなさい。/千の太陽が/いっぺんに空にあるところを」
「想像しなさい。/西から東へ/一匹の金魚が空を泳いでいくところを」
 というふうに……。


 さて、「YES オノ・ヨーコ展」について。
 大規模な回顧展である。1950年代の初期作品から最近作まで、半世紀にわたる創作活動の全貌が鳥瞰できる。

 飯村隆彦の著書『YOKO ONO/オノ・ヨーコ 人と作品』(講談社文庫)などでしか知らなかった彼女の代表作の数々を間近に観ることができたので、私は十分に満足した。
 ジョン・レノンとともに行なった有名な「平和のためのベッド・イン」の模様を映した映像や、「No.4」などの前衛映画作品も観ることができた。

 ちなみに、出展作品から私が好きなものをいくつか挙げると……。

・「空を開けるためのガラスの鍵」/透明なアクリル・ケースに収められた、4本のガラス製の鍵

・「永遠の時計(ETERNAL TIME CLOCK)」/秒針だけがあり、時針も分針もない時計が、アクリル・ケースに収められている

・「プレイ・イット・バイ・トラスト(信頼して駒を進めよ)」/駒も盤も、それが置かれたテーブルも椅子も、すべてが純白に塗られたチェスのオブジェ。かりにこのチェスを実際にプレイしたとしても、自分の駒なのか相手の駒なのか、すぐにわからなくなってしまうだろう。勝ち負け・争いごとを否定する意志が、この作品にはこめられている

・「リンゴ」/アクリルの展示台の上にポツンと置かれた本物のリンゴ。静物画を描くかわりにリンゴそのものを置き、それがしなびて腐っていくプロセスそのものをアート化した作品

・「スカイ・マシーン」/ステンレス製の「空の自動販売機」。「コーラの自動販売機のかわりに、街角に空の自動販売機があったらどんなに素晴らしいでしょう」とはヨーコの弁

 すべての作品に通底しているのは、力強い「肯定への意志」だ。「世界は悲惨に満ちているけれど、それでも希望を捨てまい、ユーモアを忘れまい」というポジティヴな意志が、みなぎっている。だからこそ、全体のタイトルも「YES」なのだ。

 ジョンとヨーコが惹かれあうきっかけとなった「天井の絵/イエス・ペインティング」も、もちろん展示されていた。ヨーコの個展を偶然観にきたジョンが、この作品に感動して彼女に興味を抱いたという、伝説的な作品である。

 白いはしごをのぼると、天井から釣り下がった白い板には豆粒のように小さい字が書かれている。そばに鎖で吊るされた虫メガネで見ると、「YES」という言葉が浮かび上がる。
 ジョンもまた、ヨーコの「肯定への意志」に胸打たれたのだった。

 会場の片隅には、「ウィッシュ・ツリー(願いの樹)」と題されたモミジ(?)の樹が展示されていた。
 来場者が、用意された小さな短冊に自分の願いごとを書き込み、その樹の枝に吊るすようになっている。要は、日本の七夕から想を得た参加型のアート作品である。展示が終わったあと、短冊はすべてオノ・ヨーコのもとに届けられるという。

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コメント

No title
東京へ出かけたついでに、MOTで「オノ・ヨーコ 私の窓から」展を見ました。
それまで、彼女の活動にそれほど関心がなかった私は、実験的だけれどもオーセンティックな作品の数々に、すっかり魅了されてしまいました。
帰宅後、書架から「グレープフルーツ」を取り出して再読しました。
現代美術でいうところのInstruction Artです。

 石を空に投げなさい。
 戻ってこないくらい高く。
 ・・・
 この本を燃やしなさい。
 読みおえたら。

instructionの一つ一つが、それぞれ美しい詩のようだということに、今になって、ようやく気付きました。
残念です。私の窓こそ開いておくべきでした。
Risaさま

はじめまして。
ブログも拝見しました。
音楽の仕事をなさっている方なのですね。

『グレープフルーツ』、いいですよね。
それでは。

  • 2008-05-28│18:53 |
  • 前原 URL│
  • [edit]
はじめまして。
このpageに、今日、偶然出会いました。
とても興味深く拝読させていただきました。

私は毎晩のように、私の白い天井に"YES"の文字を描くことを想像している者です。
そして勿論、ヨーコさんの『グレープフルーツ・ジュース』は長い間、愛読書でした。

...IMAGINE...PEACE & LOVE

Risa


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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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