『赤と黒の熱情』



 野沢尚氏自殺の報に驚く。

 城戸賞・江戸川乱歩賞・向田邦子賞・吉川英治新人文学賞・芸術選奨文部科学大臣賞……数々の賞に彩られた、作家/シナリオライターとしての華麗なキャリア。
 こんなにも輝かしい名声を得て、目の前にも大きな仕事がたくさんあったというのに、それでもなお、自ら命を絶つほど何かに苦悩しておられたのだろうか。

 いま思えば、この人の作品には死の匂いに満ちたものが多かったけれど……。

 野沢氏が脚本を書いた映画で私が個人的に好きだったのは、工藤栄一監督の『赤と黒の熱情』(1992年)である。
 目の前で兄を殺され、ショックで記憶喪失に陥ったヒロイン(麻生祐未)のために、その兄を組の命令で殺したヤクザが、罪滅ぼしに「美しいニセの思い出」を作ってやろうとする物語。
 だが、ヒロインの尻に彫られた蝶のタトゥーが、「ニセの思い出」にほころびをもたらしてしまい……。

 この着想は、いかにも野沢氏らしいと思う。ヤクザ映画なのに耽美的で切ないのだ。
 話題の映画『グッバイ、レーニン!』のストーリー(東西ドイツ統一後に昏睡から目覚めた母親にショックを与えぬよう、家族が「まだ統一されていないふり」をする物語。私は未見だけど)は、ちょっとこの作品に似ている気がする。

 もっとも、この『赤と黒の熱情』、着想こそ卓抜だが、後半の展開が破綻してしまっている印象で、明らかに失敗作だと思う。しかし、ヘンな言い方だが、へたな傑作よりも心に残る「忘れがたい失敗作」なのだ。

 ともあれ、ご冥福をお祈りしたい。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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