『下妻物語』



 池袋で、話題の『下妻物語』を観た。
 嶽本野ばらの同名小説の映画化。主演は深田恭子。

 監督・脚本の中島哲也は、おもにCMの世界で活躍してきた人。トヨエツと山崎努がスローモーションで卓球したり焼き肉食ったりする「LOVE BEER!」というアレを手がけた人だそうだ。

 CM出身の映画監督は枚挙にいとまがないが、この作品ほどCMの手法を強引に映画にあてはめた作品は観たことがない。これはまるで「長いCMを観ているような映画」だ。ホメ言葉には聞こえないだろうが、掛け値なしの讃辞としてそう言いたい。
 随所でギャグが炸裂する映画なのだが、そのギャグの部分にいずれもCM的手法が使われている。そして、それが見事にキマっているのだ。

 CM出身の映画監督にありがちな「映画コンプレックス」が、微塵も感じられない。「CMの手法で映画を撮ってこそ、オレの強みが発揮できるってもんだ」という監督のつぶやきが、スクリーンの背後から聞こえてくるようだ。

 “友達なんて1人もいなくても平気”な孤高のロリータ少女・桃子(深田)と、過剰なまでに「熱い」ヤンキー少女・いちご(土屋アンナ)の、奇妙な友情の物語である。

 ラブストーリーの場合、主人公とヒロインの間に立ちはだかる障壁(身分の違い、年齢差など)が、読者や観客を引っぱる駆動力となる。
 同様に、友情の物語も、壁/差異こそがドラマを生む。本来ならおよそ相容れないはずの、相違点だらけの桃子といちご。2人に友情が生まれるまでの磁場のぶつかり合いが、この映画の駆動力だ。 

 観ながら思い出したのは、高樹のぶ子の芥川賞受賞作『光抱く友よ』。地味な優等生少女と奔放な不良少女の友情を切なく描いた、清冽なる名作である。

 『光抱く友よ』は、発表当時から古風な印象を与えるほど、きわめてオーソドックスな友情物語であった。いわばスタンダード・ナンバー。対して、この『下妻物語』はいわばパンク・ヴァージョンだ。
 矢継ぎ早にくり出されるギャグ、30秒のCMを100本作って“映画という接着剤”でつなぎ合わせたような映像。それでいて、骨格はあくまで古風な友情物語。才気あふれる若手バンドがスタンダード・ナンバーを斬新な手法でカヴァーしたような、そんな印象の映画なのである。

 『光抱く友よ』が友情の終焉までを描いた作品だったのに対し、この『下妻物語』は友情が本格的に始まるというところで終わる。だから、後味もさわやか。

 それと、舞台となる茨城県下妻市の風情が、栃木県出身の私には郷里を思い出させて懐かしい。
 洋服を買うためだけに上京して「週刊東京『少女A』」(※)と化す桃子の姿が、輸入盤を買うために東武伊勢崎線に乗って上京していた10代のころの私とオーバーラップしてしまう(笑)。

 ロリータ・ファッションで決めたフカキョンを写したポスターだけで「うへー」と敬遠してしまう向きもあろうが、オジサン・オバサンにも十分楽しめる、痛快で斬新な青春映画である。

※「週刊東京『少女A』」=爆風スランプの1stアルバムのオープニングを飾った、笑える名曲。週末だけ東京へ出かける田舎娘の青春を活写した歌詞が秀逸。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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