長嶋有『パラレル』


パラレルパラレル
(2004/06/26)
長嶋 有

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 長嶋有著『パラレル』(文藝春秋/1429円)読了。

 『猛スピードで母は』で世に出た、私のひいきの作家の最新作。
 帯には「著者初の長編」とあるが、前作『ジャージの二人』も実質的には長編(二つの中編という形になっているが、実際には一つのストーリー)なんだけどね。ま、いいけど。

 相変わらずの「長嶋有節」が堪能できる、危なげのない作品。

 品のよいユーモア。場面設定の巧みさ。人間関係の「距離感」をデリケートにとらえる精緻な心理描写。なにげない日常を味わい深く描くディテールへのこだわり。携帯電話やメールなどの現代的な小道具の使い方のうまさ。そうした長嶋有の美点は、本作でも全開である。

 長嶋有は、2冊目の作品集『タンノイのエジンバラ』あたりから、モラトリアム人間を執拗に描きつづけてきた。失業中の若者、不倫のゴタゴタからピアノ教師をやめて腰掛け的にパチンコ屋で働く女性、仕事を辞めてなんとなく作家を目指す男など、人生を足踏みする「ダメダメ」な男女を主人公に据えつづけてきたのである。

 本作もしかり。主人公の向井七郎は元ゲームデザイナーだが、現在失業中。そのいい感じのダメダメっぷりが、いかにも長嶋有らしい。
 いまどきの熱度の低い20代・30代を、長嶋有ほどリアルに描ける作家はいないと思う。

 ただ、この『パラレル』は、そこそこ面白かったけれど食い足りなかった。身もふたもない言い方をしてしまうと、「相変わらずの長嶋有節」にもう飽きてきた。
 ファンだからこそ苦言を呈したいのだが、そろそろ新境地を開拓しないと、作家として生き残っていくのは難しいのではないか。

 この『パラレル』は、長嶋作品としては初めてセックス・シーンが出てきたり(彼のことだから生々しいものではない)、過去と現在の技巧的なカットバックが多用されたりと、新しい試みもしている。しかし、その新しさが小手先の工夫にとどまっていて、マンネリ感の打破に結びついていない。

 なにより、作品全体の雰囲気が前作『ジャージの二人』と瓜二つで、私から見るとそれが大きなマイナス・ポイント。

 前作の主人公は仕事を辞めて小説を書いている男で、妻の浮気から離婚寸前。
 本作の主人公は失職中の元ゲームデザイナーで、妻の浮気から離婚したものの、元妻とは友達としての関係をつづけている。
 また、前作の主人公と父親の関係も、本作の主人公と親友・津田の関係と相似形である。

 似ているのは基本設定と雰囲気だけだが、たった4冊目の作品集で前作と似たような作品を書くようでは、作家としての「引き出し」が乏しすぎると思う。長嶋有、要充電である。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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