『父、帰る』

父、帰る [DVD]父、帰る [DVD]
(2005/04/08)
コンスタンチン・ラヴロネンコウラジーミル・ガーリン

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 試写会で『父、帰る』を観た(映評の仕事である。以下はその原稿の下書きのようなもの)。
 2003年度のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)と新人監督賞を受賞した、9月公開のロシア映画だ。  →オフィシャル・サイト

 監督のアンドレイ・ズビャギンツェフはこれが第1作。デビュー作とは思えない堂々たる語り口に驚かされる。第1作でのヴェネチア映画祭グランプリ受賞は、史上初だという。

 ロシアの片田舎の夏。ある母子家庭に、失踪していた父親が突然帰ってくる。
 12年ぶりの再会。とはいえ、まだ少年の兄弟――アンドレイとイワンには、父親の記憶そのものがない。写真でしか知らないのだ。
 だが、父親は2人に「久しぶりだな」と言うのみで、空白などなかったかのように父親として振る舞い始める。

 どう接していいものか戸惑う兄弟に、父親は「明日から旅に出よう」と言う。そして、再会したばかりの妻を家に置いたまま、目的地を定めない短い旅に出発するのだった。
 そう、これはロード・ムービーなのである。ロシア産のロード・ムービーとは珍しい。てゆーか、初めて観た。ソ連時代には旅の前に当局の許可を得る必要があったから、ロード・ムービーを撮ること自体が困難だったのである。

 ロシア映画を観るのは、ものすごく久しぶりだ。
 そしてこの映画は、よくも悪くもきわめてロシア映画らしい作品。ハリウッド産の派手なエンタテインメントに慣れた目には、ゴツゴツした感触の“無骨な詩情”がすこぶる新鮮に感じられる。

 同じ骨子で日本映画を作ったら、父親と息子たちの言葉のやりとりで観客の涙腺を刺激する作品になるであろう。
 だが、この映画の父親はとことん寡黙で粗野、そして謎めいている。息子が反抗的な態度をとったら鉄拳で応じ、よけいなことは何一つ話さない。そして、旅の先々で出合うさまざまな出来事を通して、多くを語らぬまま息子を鍛えようとする。このへんはいかにも「ロシアの父親」という感じ。

 監督のズビャギンツェフについて、「タルコフスキーの再来」と評する声があるという。なるほど、水のイメージに満ちた映像の鮮烈な詩情、そして映画全体の神話的な骨格は、タルコフスキーの諸作を彷彿とさせる。

 スクリーンに映し出されるロシアの自然はどれも美しいが、荒涼とした寂寥感に満ちている。ことに、主舞台となる無人島や湖の風景は、どこか冥界を思わせる神秘的な深みを感じさせる。
 ロケ地となった湖は「ラドガ湖」だという。フィンランドとの国境近くに位置する、ロシア第2の湖である。まるで海のように見える巨大さに圧倒される。無人島も、湖の中にあるのだ。
 セリフの少ない映画だが、風景がセリフよりも雄弁に観客に語りかける。

 宣伝用チラシには、「あなたにとって家族とは、親子とは、そして父とは」というコピーがある。配給会社はこの映画を、「心あたたまる父子の情愛の物語」として売るつもりのようだ。
 しかし実際には、これはそんな甘っちょろい映画ではない。むしろ、少年2人が父親を乗り越えて大人になっていく「イニシエーション(通過儀礼)」の物語であり、「オイディプス王」を彷彿とさせる恐ろしくも重厚な悲劇なのである。

 とくに、終盤の展開は衝撃的だ。「父子の葛藤が引き起こす悲劇」とだけ言っておくが、度肝を抜かれた。

 兄弟を演ずる少年2人は、いずれも目を瞠る好演。とくに弟役のイワン・ドブロヌラヴォフは、当時13歳とは思えない達者な演技を見せる。
 兄役のウラジーミル・ガーリンは、なんと本作の公開前に亡くなったという。この映画の主舞台となったラドガ湖に友人と遊びに行った際、不慮の事故で溺死したのである。なにやら因縁話めいている。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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