「一線」を踏み越えたテロリスト

 ロシアの学校占拠事件。あまりにも悲惨な結末に、怒りや悲しさを通り越してただ唖然となった。何を言ってよいのかわからないが、何か書かずにいられない。

 これは、「9・11」と並んで、今後世界を負の方向に大きく突き動かす事件だろう。じっさい、「ロシアの9・11」というフレーズで事件を報じたマスコミもある。現代史の悲しい里程標――。

 人質の8割以上が死亡という恐るべき事態は、もしかしたら、ロシア当局側に「最初から救出する気がなかった」ことを示しているのではないか?
 救う気になればもっと救えたものを、あえて救わなかったのではないか? 「今後、誰を人質にテロを行なおうと無駄だ」ということを、子どもたちを“いけにえ”にしてでもテロリストに思い知らせるために……。

 …と書いたあとで、「特殊部隊の突入は偶発的なものだった」とする報道があった。テロリスト側の爆弾が偶然に一つ爆発し、それを「特殊部隊突入」と誤解したテロリストたちがパニックに陥って銃の乱射を始めたため、突入せざるを得なかったのだという。
 そうだったとしても、もう少しやりようはなかったものか。いったいなんのための「特殊部隊」なのか?

 定期購読している『DAYS JAPAN』の最新号(9月号)では、ジャーナリストの林克明氏が、チェチェンのテロリスト側に立ったリポート「瓦礫となったチェチェンの街で」を寄稿している。ロシア側からの情報に偏った現今の報道では得られない「もう一つの視点」を与えてくれる良質な記事である。
 チェチェン紛争に関するかぎり、「チェチェン人のテロリストが悪で、ロシアが正義」という単純な図式は成り立たない。

 ……とは思うのだが、今回の事件で、テロリスト側は越えてはならない一線を踏み越えてしまったのではないか。

 ロープシンの『蒼ざめた馬』の中の、有名なエピソードがある。 
 帝政ロシア時代、大公暗殺を狙ったテロリストが、大公の乗る馬車に向かって爆弾を投げつけようとした。
 だがそのとき、馬車の中に子ども(大公の甥と姪)の姿が見えたことで、テロリストは爆弾を投げられなかった。たとえ所属する革命組織の命令と大義に背くことになっても、「人間として」投げられなかったのである。

 それが、テロリストのぎりぎりの「一線」であろう。その一線を踏み越えてしまったあとでは、どんな「大義」もただむなしい。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。56歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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