永島慎二『漫画家残酷物語』


漫画家残酷物語―シリーズ黄色い涙 (1)漫画家残酷物語―シリーズ黄色い涙 (1)
(2003/06/01)
永島 慎二

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 アマゾンに注文してあった永島慎二著『漫画家残酷物語』の第2巻(ふゅーじょんぷろだくと/1470円)が届いた。

 1960年代前半に貸本専門マンガ誌『刑事(デカ)』に連載され、多くの若者たちに熱狂的に愛された伝説的名作の復刻版。「永島慎二漫画家生活50周年記念出版」である。
 
 2巻の帯には、マンガ評論家の村上知彦がこんな言葉を寄せている。

「あなたの生涯の一冊は? などという無茶な質問を受けたときは、この『漫画家残酷物語』を挙げることにしている」

 私もそうだ。私にとっての生涯ベストワン作品。すべてのマンガの中でいちばん好きである。

 永島慎二はすでにマンガ家としては引退に近い状態で、西荻窪(阿佐ヶ谷から引っ越した)の自宅で油彩画や版画に取り組む日々だそうである。
 それでも、私にとっては敬愛してやまない人。東京に出てきてほどないころに入手した氏のサイン色紙は、私の宝物だ。

 1961~1964年にかけて発表された作品だから、私もさすがにリアルタイムで読んでいたわけではない。1970年代後半の「第1次マンガ文庫ブーム」の際、小学館文庫で文庫化されたのを機に読んだのだ。当時、私は小学6年生。

 衝撃的だった。
 マンガを愛するがゆえに、創作に悩み苦しむ若きマンガ家(とその卵)たちの青春群像。おそらくはマンガ史上初めて試みられた、私小説的な「自己表現」。この作品ほど、私に直接語りかけているように思えたマンガはなかった。いまに至るもない。

 今回の復刻は、幻の生原稿が多数発見されたことを受けての、「初の完全復刻」である。
 というのも、当時はマンガ家の原稿を保管しておく習慣そのものが業界になく、生原稿は捨てたり読者プレゼントに使われたりして、散逸してしまうのが普通だったから。つまり、私がこれまで読んでいた小学館文庫版やサンコミックス版は、トレス版(掲載誌のページをトレスしたもの)だったのである。

 今回読み直してみても、やはり素晴らしい作品だと思った。

 40年も前のマンガだから、技術的にはごく素朴で、1ページにこめられた情報量はいまのマンガよりもはるかに少ない。

 また、各編(全28編の短編連作で、それぞれ主人公は別のマンガ家)のストーリーも、いまの私の目からみると、飛び抜けて素晴らしいというほどではない。映画などからのパクリも目立つ。たとえば、ガンに侵されたマンガ家を主人公にした「生きる」は、黒澤明の『生きる』のパクリだ。

 だが、それでも、読者に訴えかける力にはすごいものがある。作中でマンガ家の一人がつぶやくように、「血を流して描いているんだ」という印象なのだ。

 また、1編ごとに表現スタイルを変え、絵柄さえもしばしば変えて、新しいマンガ表現を模索しているその実験性にも、目を瞠る。「貸本マンガ」という、一般のマンガ界からは軽んじられていたフィールドだからこそ、表現の実験が存分に行なえたのである。

 なお、7月下旬発売予定の第3巻(最終巻)が、まだ出ていない。
 連載がつづくにつれ、尻上がりにどんどん凄みを増していったこの作品は、最後のほうに傑作が集中している。
 「蕩児の帰宅」「遭難」「びんぼうなマルタン」「陽だまり」などという傑作を、私は何度読み返したことか。

 3巻を早く出せ、ふゅーじょんぷろだくと。
 出たら、またこの文章に追記します。
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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。56歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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