養老孟司『生の科学、死の哲学』


 養老孟司ほか著『生の科学、死の哲学』(清流出版/1400円)読了。
 大ベストセラー『バカの壁』の著者がホスト役をつとめた対談集である。

 対談相手の人選が面白い。作家・マンガ家・彫刻家・武道家・写真家など、著者とはまったく畑違いの相手のほうが多いのだ。
 そして、多彩な分野の精鋭を向こうに回して、つねに養老のほうが“教える側”に立っている点がすごい。「今日は、養老先生にぜひ教えていただきたいことがありまして」といった言葉が、相手の口からしばしば出てくるのだ。

 それは、たんに養老が博学だからではあるまい。
 養老は高名な解剖学者だが、「以前からお前のやることは哲学だといわれることが多かった」と自ら述べるとおり、科学と哲学の架橋作業をつづけてきた人でもある。一貫して、「『ヒトとはなにか』を科学の視点から考えようと」しつづけてきた人なのだ。芸術であれ武道であれ、人間を扱うものには違いないから、「人間科学」の泰斗たる養老に教えを乞いたいと思うのだろう。

 養老の著作のうち、自ら文章を書いたものは総じてわかりにくく、読みにくい。正直、私は一度も面白いと思ったことがない。『バカの壁』は、有能な編集者が養老の談話をわかりやすくまとめたもの(このことは養老も公に認めている)だからこそ、ベストセラーになったのだろう。

 しかし、対談集はおおむね面白い。本書もしかり。
 収められた19編の対談はいずれも、とくにテーマを定めず自在に話を広げたものであり、「生の科学、死の哲学」というほど大げさな内容ではない。むしろ、解剖学などの知見をふまえた“ハイブロウな雑学集”として愉しめる。たとえば、次のような興味深いトピックがちりばめられているのだ。

 “死体の解剖は、手足に手袋と靴下をはかせて行なう。そうしないと、乾燥してミイラになってしまうから”

 “写真のフラッシュをたいたとき、瞳孔部分が赤く写るのは、網膜の血管が写るため”

「運動性の失語症になっても、話はできないけれど歌は歌えるのです。だから歌詞というのは脳の右側でやっている。言葉のようで言葉ではない」

 そうした中にときおり、雑学を超えた「哲学」を感じさせる言葉が出てくる。たとえば――。

 「(現代人が)言葉をこんなに甘く見るようになってしまった原因に、メディアの発達がありますね。これだけ言葉の量が増えると、安いものだと勘違いしてしまう」

 人間について、生と死について「考えるヒント」に満ちた、好対談集。 
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。56歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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