『ビハインド・ザ・サン』

 ビハインド・ザ・サンの画像

 『ビハインド・ザ・サン』を観た。10月公開予定のブラジル映画だ。

  公式サイト→  http://www.gaga.ne.jp/behindthesun/

 監督は、『セントラル・ステーション』のウォルター・サレス。原作のイスマイル・カダレの小説(『砕かれた四月』)は東欧アルバニアが舞台だが、映画は20世紀初頭のブラジルの農村が舞台となっている。監督自ら原作者を訪ね、直談判して翻案の許可を得たという。

 ブラジル東北部の荒涼とした農村。そこに住む2つの家族は、土地の権利をめぐって長年血で血を洗う殺し合いをつづけてきた。そのうちの1つ、ブレヴィス家の次男トーニョ(演じるのは、『ラブ・アクチュアリー』にも出演した美形ロドリゴ・サントロ)が、この映画の主人公だ。
 舞台をブラジルに変えたことが奏功して、南米の作家による「マジック・リアリズム」の世界を思わせる映画になっている。“『ロミオとジュリエット』meetsガルシア・マルケス”といった趣。

 「100年前の話とはいえ、殺し合いながら警察が登場しないのは不自然」とか、そういうことは言いっこなし。これは神話的な「マジック・リアリズム」の世界なのだから。
 「次の満月の夜まで」と期限を切って結ばれる休戦協定とか、殺された者の血染めのシャツを陽に干し、血が黄色く変色するのを待って復讐するとか、小さなエピソードや登場人物のセリフも、いちいち神話めいている。

 たとえば、こんなセリフ。争いつづける両家を評して、村にやってきたサーカス一座の男が言うセリフだ。

【引用始まり】 ---
「あいつらのやっていることは、昔見た蛇の闘いと同じだ。2匹の蛇が互いの尾に食らいついて輪になっていた。相手の姿がなくなるまで食い合い、血の跡だけが残った」
【引用終わり】 ---
 ロミオとはちがって、トーニョは対立するフェレイラ家の娘に恋するわけではない。彼が恋に落ちるのは、サーカス一座の娘・クララだ。

 クララを演ずるフラヴィア=マルコ・アントニオが、抜きん出た存在感を発揮している。実際にサーカス団員出身の女優(!)なのだそうで、ジーン・シモンズばりの火吹きや火食いなどの曲芸を軽々とやってのける。こんな女優、初めて見た。
 ハリウッド女優とはコードの異なる野性的な美しさも魅力的。小麦色の肌に漆黒の髪。細身ながら、全身から神秘的な生命力をみなぎらせている。

 マルケスなどの「マジック・リアリズム」の小説は、殺人などの陰惨な世界を描いても、ギラギラと輝く強烈な生命力を感じさせるものだ。いっぽう、この『ビハインド・ザ・サン』はひたすら陰鬱なだけで、いささかパワー不足。“痩せこけた弱々しいマジック・リアリズム”――そんな印象なのだ。
 そんななか、“野生のヒロイン”の力強さが、この映画を救っている。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。56歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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