『パラダイス』名セリフ集


パラダイス 11 (ヤングサンデーコミックス)パラダイス 11 (ヤングサンデーコミックス)
(2005/05/02)
守村 大

商品詳細を見る


 私はすごく気に入っているマンガなのだけれど、守村大(もりむら・しん)の『パラダイス』(『ヤングサンデー』連載中)はあまり人気がないようだ。コミックスも揃っていない書店が多い。いいマンガなんだけどなあ。

 というわけで、改めてご紹介。
 まずは、メイン・サイトの「オススメ日記」で以前紹介したときの文章からコピペ。 


 ボクシングは詩的なスポーツである。
 もちろん、つきつめて考えればすべてのスポーツが詩的であるのかもしれない。しかし、中でもボクシングほど詩的なスポーツはほかにないのではないか。

 たとえば、沢木耕太郎の傑作ノンフィクション『一瞬の夏』は、ボクシングの世界を舞台にしていたからこそ『一瞬の夏』などという詩的なタイトルがバシッときまったのだ。『あしたのジョー』は、ボクシング・マンガだったからこそ「燃えかすなんか残りやしねえ。真っ白な灰になって燃えつきるんだ」などというジョーのセリフがさまになったのだ。
 詩的なスポーツだからこそ、ノーマン・メイラーが、寺山修司が、ジョイス・キャロル・オーツ(『オン・ボクシング』の著者)が、詩的な言葉でボクシングについて語りつづけたのだ。

 そしていま、マンガの世界に、「詩的スポーツとしてのボクシング」を追求した傑作が登場した。守村大の『パラダイス』である。

 守村といえば、週刊『モーニング』に連載していた長編『あいしてる』が比較的よく知られている。これは奇妙な作品で、全3部構成になった作品のうち、第2部だけがボクシング・マンガになっていた。主人公・鉄馬(ケンタ)が、この第2部ではボクシングの世界に挑んだのだった。そして、私はこの第2部の分だけコミックスを買い集めた。ここだけが突出して面白かったからである。

 『パラダイス』は、筋金入りのボクシング・マニアである守村が、『あいしてる』以来久々にボクシング・マンガに取り組んだ作品である。しかも、今度は第2部だけなどというハンパな形ではなく、最初からボクシング・マンガの傑作とすべく正攻法で挑んだ作品なのだ。

 主人公は、リング上で倒されたダメージが元で夭折した天才ボクサーの遺児・涼野ガクト。母親の意志によって、亡き父親がボクサーであったことも知らされず、ボクシングとは無縁に育ってきたガクト。だが、18歳になったガクトは、後楽園スタジアムで初めてボクシングの試合を観ながら、故郷に帰ってきたかのような不思議な懐かしさを覚える。そして、「スタジアムの主」と呼ばれる古株のボクシング・マニアにその才能を見抜かれ、ボクシングを始めるのだった。

 ガクトのトレーナー役を買って出たサブローは、かつてガクトの父とリングで闘い、死に至らしめた元ボクサーであった。
 それまで人を殴ったことすらなかったガクトだが、サブローに鍛え上げられるなかで、急激にその資質を開花させていく。

 「必殺パンチ」のたぐいは登場せず、試合場面の描写はすこぶるリアル。マニアも唸る、本格派のボクシング・コミックである。
 なにより素晴らしいのは、ガクトや周囲にいる人々がボクシングについて語るその言葉が、きわめて詩的で美しい点だ。


 さて、ここでは、『パラダイス』のコミックス既刊8巻の中から、名セリフを選りすぐって紹介してみよう。読む者を勇気づけてくれるいいセリフがいっぱいである。

 サブロー「ここ(リング)は清潔でやさしいところさ……社会は、不浄であいまいで欺瞞だらけ。不公平、不平等が平気でまかり通る。闘争のほとんどがくじけそうになるハンデ戦だ。だが、ここでは、誰もができる限り公平であろうとする。闘う者も、それを裁く者も、見る者もだ……(中略)強い相手とは、強くならないと闘わせてもらえない。ミスマッチはしらけるだけ……求められるのは平等な闘争だ」

 サブロー「前にもっと強いパンチに耐えたことがあるという経験が……この程度のパンチでは倒れないという精神的支えになる」

 サブロー「臆病者も英雄も、どっちも胸のうちは恐怖でいっぱいさ……臆病者は逃げる…英雄は、恐怖を力に変えて前進する」

 矢部「闘志に支えられていないテクニックやパンチ…防御技術は役に立たん。ここで発揮される力は、すべてそれら×ハートだ」

 ガクトの母「他人になんと言われても、なくならないのが本当の自分よ。自分が何者かわかったとき、人は幸せも見つけるのよ」

 ノリコ「みんな、自分をカッコよくステキに見せようと、お化粧したりツッパッたり…どんなに自分を飾りつけても、そんなのまやかしだわ。カッコよくなりたいと思ったら、飾りつけちゃダメなのよ。身につけてるムダなもの削りとらなきゃ」

 ガクトの母「死ぬよりつらいのは、『生きない』ことよ」

 サブロー「才能もセンスもテクニックも……それらすら、リングには不純物かもしれないぜ。リングに持ち込んで胸張れるのは“闘志”だけさ」

 サブロー「ボクシングはペースの奪い合いだ。ペースを握って自分を出しきったやつが勝つ。リングは……自分をぶちまける場所だよ」

 天(タカ)「泣きたい時も腹減った時も……苦しい時も悲しい時も……前進だ! うしろには何もねえっ! 欲しいものはいつだってはるか前だ!」

 ガクトの父「神様はイジワルだからひとを弱虫にしか作らなかった。誰もが弱虫だ。だから、自分のズルイとことか情けないとこはよくわかるようにできてる。ほんの少しの勇気だけで、まわりのやつや今の自分より強くなれるってことだぜ! それは神様への挑戦だ」

 天のトレーナー「苦痛から逃れようとするやつと、闘うやつがいるよ。逃げれば敗北の価値も勝利の味もわからん。闘いと苦痛はセットだ。どっちを選ぶ?」

 サブロー「ボクシングは痛めつけ合い相手の闘志を奪う競技。弱点を狙うのは闘争の正義。手加減しないのがリングの倫理」

 天「誰も自分で自分を幸せにはできないんだ。誰かに満たしてもらうしかねーのさ……こんな自分にも自分以外の誰かを、満たしてやる力があるってことだよ。なあ涼野…リングで誰かのために闘う必要なんかどこにもない。けど、自分の闘いが誰かを満たしてやれるとしたらスゴくないか」
関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

里親募集中

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
18位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
14位
アクセスランキングを見る>>