『ヴァイブレータ』



 『ヴァイブレータ』をDVDで観た。
 『赤目四十八瀧心中未遂』とともに、主演の寺島しのぶの評価を決定づけた作品。2作で、彼女は昨年の国内映画賞を総なめにした。
 
 映画としては『赤目~』のほうが上だと思うが、これもなかなかよかった。
 寺島しのぶよりきれいな女優は、いくらでもいる。だが、彼女ほど存在感のある女優は、いまほかにいないのではないか。

 女優という存在は、整形の有無にかかわらず、どこか人工的な印象を与えるものだ。しかし寺島しのぶは、じつに女優らしい女優であるにもかかわらず、人工的な感じが微塵もない。表情も声も肉体も、どこをとっても生々しい。そこがよい。

 脚本は荒井晴彦。
 31歳の女性フリーライターと長距離トラックの運転手との行きずりの関係――というこの映画の骨子から、誰もが思い出すのは『赫い髪の女』(1979)であろう。
 「にっかつロマンポルノ」屈指の名作として評価されるあの作品は、荒井の脚本家としての代表作であり、ダンプカーの運転手(石橋蓮司)と名もない「赫い髪の女」(宮下順子)との行きずりの関係を描いたものだった。
 私も、この『ヴァイブレータ』のことを「荒井が“21世紀の『赫い髪の女』”を狙った作品なのだろうな」と思っていた。

 だが、じっさいに観てみると、骨子こそ似ているものの、2つの作品の肌合いはかなり違う。
 遠い昔に観た記憶しかないので違っているかもしれないが、たしか『赫い髪の女』は、ストーリーの大半が運転手の狭いアパートで展開された。また、ヒロインはほとんどセリフらしいセリフを言わなかったように思う。

 一方、この『ヴァイブレータ』は、トラックの運転席がおもな舞台ではあるものの、窓外に展開される風景が次々に変わっていくロード・ムービーなので、画面には爽快な開放感がある。また、寺島しのぶ演ずるヒロインは、モノローグも含めて大量のセリフをしゃべる。
 なにより、『赫い髪の女』がエロスそのものを描いた作品であるのに対し、この『ヴァイブレータ』はむしろ「女性映画」といってよい作品なのである。性描写は多いものの、ヒロインが生身の女性としてしっかり描かれているから、女性が観ても不快ではないと思う。

 ストーリーの大半は寺島とトラック運転手とのやりとりで進むのだが、そのやりとりがじつによい。作りものめいたぎごちなさがなく、含蓄あるセリフが多い。こうした「大人の男女の会話」を書かせると、荒井晴彦は抜群にうまい。
 また、運転手を演ずる大森南朋の演技もよい。演技力に定評ある寺島しのぶと、終始対等に伍している。

 ヒロインの早川玲は、自らの内側から聞こえる「もう一人の自分の声」に悩まされ、アルコール依存と食べ吐きをくり返す女性。しかし、コンビニで出会った運転手の車に乗り込んで旅をする過程を通して変わっていく。旅の終わりには、「もう一人の自分の声」は聞こえなくなっていた。
 ロード・ムービーを教科書的に定義すれば、「旅の過程で主人公が変貌していく様子を描いた映画」となる。その意味で、これはじつに正統的なロード・ムービーである。

 映画のラスト、2人は出会いの場となったコンビニに再び戻り、そこで別れる。しかし、「声」が聞こえなくなった玲の表情は、ファースト・シーンとは別人のように晴れやかで、聖性すら漂わせている。
 セリフに頼らず、表情だけで内面の変化を表現した寺島の演技がすごい。ビデオやDVDで観る場合、ラストシーンとファーストシーンの表情の違いを見比べてみるとよい。

 なお、タイトルの「ヴァイブレータ」(=振動するもの)とは、トラックそれ自体を指す。エンジンをかけている間、トラックの座席は静かに振動しつづけているのだという。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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