ジョセフ・ナイ『ソフト・パワー』

ソフト・パワー 21世紀国際政治を制する見えざる力ソフト・パワー 21世紀国際政治を制する見えざる力
(2004/09/14)
ジョセフ・S・ナイ

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 ジョセフ・S・ナイ著『ソフト・パワー』(日本経済新聞社/2100円)読了。
 書評の仕事のため読んだもの。予想したよりもずっとわかりやすくて面白かった。

 「ソフト・パワー/ハード・パワー」という言葉はすでに日本にも定着しているが、その意味内容がどこまで正確に理解されているかというと心もとない。
 「ソフト・パワー=知力」「ハード・パワー=体育会的ゴリ押し」くらいのニュアンスで誤用されているケースが多いのではないか(人のことは言えない。私の理解も似たようなものだった)。

 実際には、「ソフト・パワー」は「国際関係において、自国の魅力によって他国を味方につける力」と定義される。「ハード・パワー」はその対義語で、軍事力や経済力などを指す。

 他国を強制や報酬によって従わせるのではなく、内発的促しによって望む行動を取らしめる力――それがソフト・パワーであり、その国の優れた文化、魅力ある政治的価値観や外交政策がおもな源泉となる。ハード・パワーが「競争力」であるのに対し、ソフト・パワーは「協調力」であるともいえよう。

 かつて、国力といえば何よりもまずハード・パワーを指した。だが近年、国力におけるソフト・パワーの比重がしだいに増してきている。冷戦の終結で軍事力のもつ意味合いが薄れたこと、情報化が進んで国際世論の重みが増したことなどによって、ソフト・パワーこそが国際関係の決定要因になりつつあるのだ。

 著者のジョセフ・ナイ(国際政治学者/米ハーバード大学教授)は、そうした国力の質的変化をいち早く見抜き、ソフト・パワーという概念を生み出した人物。
 本書はソフト・パワーについて、概念提唱者自らが改めて詳説したものである。現今の国際情勢を例に、ソフト・パワーの重要性を説得的に論じている。

 著者がいまあえて本書を上梓した理由は、二つある。
 一つは、ソフト・パワーという語が広く知られるにつれ、誤解・誤用も目立つようになってきたこと。学者や政治指導者の中にさえソフト・パワーを誤解している人が多く、「コカ・コーラとハリウッドとブルー・ジーンズと資金力の影響にすぎないとされることも少なくな」いと、著者は嘆息する。本書はそうした誤解を正すためのものである。

 もう一つの理由は、2001年のブッシュ政権発足以降、とくにイラク戦争でとった単独主義的政策をめぐって、米国のソフト・パワーが急落していること。

 戦後の米国は、軍事力・経済力においてのみならず、ソフト・パワーにおいても世界最強であった。多くの国がアメリカに憧れ、「アメリカのような国」を目指して進んできたのである。
 ところが、ブッシュ政権はソフト・パワーの重要性を理解しておらず、ハード・パワーばかりをごり押しして各国の反米感情を高めてしまった。著者はそうした事態を深く憂え、警鐘を鳴らしている。

 著者は、青臭い理想論的平和主義を振りかざしているわけではない。クリントン政権の国防次官補もつとめた著者は、国際政治の生々しい現実も、ハード・パワーの重要性も十分に理解している。そのうえで、ソフト・パワーを国家戦略に組み入れないブッシュ政権の姿勢を筆鋒鋭く批判しているのだ。

 主要各国のソフト・パワーを判定した章もあり、著者は日本の潜在的ソフト・パワーに高い評価を与えている。国際政治の現状と展望を深い次元から分析した好著である。


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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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