『故郷の香り』


 試写会で『故郷(ふるさと)の香り』を観た。
 中国映画である。国際的にも高い評価を得た『山の郵便配達』(1999)などの作品で、中国を代表する映画作家の一人となったフォ・ジェンチィ監督の最新作だ。

 公式サイト→ http://www.furusatono.com/
 
 中国の静かな山間の村に、主人公・ジンハーが10年ぶりに北京から帰ってくる。大学に合格して村を出てから、一度も帰ることのなかった故郷。そこで、彼は初恋の女性・ヌアンに再会する。

 ジンハーは、すぐにはヌアンだと気づかない。それほど、生活の疲れが彼女の美しさを覆い隠してしまっていたのだ。ヌアンは、共通の幼なじみである聾唖者のヤーバと結婚し、一女をもうけていた。

 ジンハーが長い間故郷に帰らなかったのは、かつてヌアンとの間に起こった“ある悲劇”のためである。再会した2人のやるせない感情のやりとりと、過ぎ去った青春時代の思い出とが、交互に描かれていく。2人を引き裂いた悲劇が何であったのかは、クライマックスで明かされる。

 かなわなかった初恋と、その相手との再会――数えきれないほど多くの物語で描かれてきたテーマである。だからこそ、“どこかで観たようなありふれた映画”になりがちな難しさもある。だが、ジェンチィ監督はそのテーマにあえて真正面から挑み、見事な成功を収めた。誰もがもっている、過ぎ去った恋に対する甘やかな感情を、観る者の心の底から呼び覚ます映画だ。

 舞台となる山村の素朴な美しさに目を瞠る。樹々や山々のしっとりと深い緑、風にそよいで黄金色にきらめく麦畑など、懐かしい「アジアの原風景」がここにはある。

 また、ヒロインのヌアンを演ずるリー・ジアの凛とした美貌も特筆ものだ。まさに「アジアン・ビューティ」。ハリウッド女優とはコードの異なる、たおやかな美しさ。

 物語は淡々としたタッチで進んでいくが、ラストには感涙必至の名場面が用意されている。これは、おそらく映画史に残るであろう名ラストシーンだ。
 ネタバレになるので具体的には書けないが、恋物語として始まったこの映画は、終盤で「家族の物語」にもなるのだ。ヌアンの夫・ヤーバを演ずる香川照之が、一言もセリフを発しない難役を見事にこなして、そのラストシーンで鮮烈な印象を残す。

 遠い日の恋愛と、家族愛・夫婦愛・故郷に対する愛――4種類の愛が織りなす物語。監督の人間を見つめるまなざしは、優しくあたたかい。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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