万馬券は災厄である

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(2007/05)
清水 成駿

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 以下は、「アサヒ・コム」5月16日付より引用。

 東京・大井競馬を主催する特別区競馬組合は16日、70歳代男性がこの日、日本の公営ギャンブル史上最高となった1300万390円の払い戻しを受けたと発表した。
 男性は午後1時ごろ、馬券を買ったのと同じ東京・後楽園の場外馬券売り場で受け取った。12点買い(1200円)で大穴を射止めた。

 

 100円が1300万円に化けるという、史上最高の超・万馬券。読者諸氏はこのニュースに触れて「うらやましい」と思うだろうか? 私は微塵も思わない。度を越した大当たりは幸運ではなく不運、否、むしろ「災厄」ですらあるからだ。

 内田樹さんは、『疲れすぎて眠れぬ夜のために』(角川書店)で次のように喝破しておられる。

 自分がたいしたものを提示していないのに、ものすごいリターンがあったという経験はその人の価値観に混乱を来たします。「濡れ手で粟」というのは少しもよいことではありません。価値観が混乱すると、ほんとうに大事な決断のときに、選択を誤らせるからです。



 いや、まったくそのとおりだと思う。

 たとえば、この超・万馬券を当てたのが競馬を始めて間もない大学生だったとしよう。
 その学生は、1300万円を将来の結婚資金に充てるだろうか? 両親にそっくりプレゼントするだろうか? ベンチャー・ビジネスの起業資金に充てるだろうか? そういうまっとうな使い方をする可能性は、測定限界以下だと思う。

 おそらくは、浮かれて舞い上がっている間に、ろくでもないことに使い果たしてしまうだろう。そして、その後彼は競馬にのめり込み、5年と経たないうちに当てた分以上の金額をすってしまうにちがいない。あとに残るのは深刻な「価値観の混乱」のみだ。

 この超・万馬券を実際に当てたのが70代の老人であったことは、「不幸中の幸い」である。それくらいの年齢になれば、もはや価値観は混乱しようもないほど固まっているだろうから。
 それに、このおじいちゃんにしたところで、これまでの競馬人生でトータル1300万円以上は軽くすっているにちがいない(※)。

 以上のようなことは、まあ、「言うだけ野暮」ではあるのだけれど……。

※作家兼馬券師の浅田次郎氏が、次のように言っている。
「毎週馬券を買い続けていながら『俺は勝っている』と豪語する人でも、年間百万円は負けている。だが、それでも彼は名人である。
 『ま、トントンだね』と答える人は、二百万ぐらい負けている。これがごく一般的なファンであろう」(『勇気凛々ルリの色』「テラ銭について」)



 かくいう私は、過去に3回しか馬券を買ったことがない競馬ド素人である。どのくらい素人かというと、馬券を買うとき窓口の女性に「1-3千円、3-1千円」と言って、「ハア?」とけげんな顔をされてしまったほどだ(連勝複式では1-3と3-1は同じ馬券である。為念)。
 
 ただ、競馬ではなくパチンコでドツボにハマった経験ならある。

 きっかけは、仕事の打ち合わせと取材の間にポッカリ時間が空いてしまったこと。都下に住んでいるのでいったん家に帰るのも面倒で、空いた時間をつぶそうとパチンコ屋に入ってしまったのだ。

 すると、最初の500円でいきなりフィーバーし、確変連チャンがつづいて数万円の儲け。味をしめて翌日また行ってみると、また最初の1000円で大連チャン。そのことで「オレってパチンコの天才かな」とか思って(笑)、ハマってしまったのである。

 それがビギナーズ・ラックにすぎないことに気づいたときには、すでにかなり負けていた。そうなると、「負けた分だけでも取り返してからやめよう」などと思って熱くなるわけだが、そんなことは絶対不可能なのである。

 いま思えば、最初の500円で大当たりしたことは少しもラッキーではなかった。私にとっては災厄であったのだ。

 ついでに、パチンコをやめたきっかけについて以前書いたコラムを、以下にコピペしておこう。


私はこうしてパチンコをやめた(初出『リミューズ』1999年6月号)

 電話を3ついっぺんにかけるような猛烈な仕事ぶりで知られた日商岩井元副社長・海部八郎は、あるとき、昼間からパチンコをしている人を見て、「ああ、あいつの時間を買いたいなあ」としみじみ言ったという。
 私も一時期パチンコにハマッていたことがあって、いましみじみと思う。パチンコに費やした無駄な時間を、できることなら買い戻したい、と。

一番ハマっていた時期には、毎朝「開店待ち」の列に並び、昼食さえとらずに夜まで打ちつづけたものだった。全身がタバコの匂いに染まり、首から腰にかけてひどい凝りと痛みが残り、何一つ得るものはなかった。金も、3ケタは軽くスッたと思う。
 そんな私がパチンコをやめたきっかけについて、ご紹介しよう。

 ある雑誌に、「パチンコ極秘必勝法教えます」なる広告が載っていた。

 「極秘必勝法」というのはどのギャンブルにもあって、当然のことながらどれも眉ツバだ。
 ただ、このときの広告は文言がじつに巧みだった。
 「関西のパチプロ集団から入手した極秘必勝法」が、「数十ページの冊子にまとめられて」おり、「回収率は1時間で2万円以上」「ゴト師がやるような違法なものでなく正当な必勝法」で、「誰にでも理解できる方法」であるという。しかも、「1円でもマイナスだったら責任を取ります!」とまで書いてあった。

「もしかしたら本物の必勝法かも……」
 ――そう思い、1万円を送った私がバカだった。

 数日後に届いた「必勝法」の小冊子は、1ページ20字ほど(たしかに「数十ページ」ではあった)のちゃちなワープロ打ちで、その結論は「パチンコをしたくなったら、したつもりになってその分貯金すること。これが唯一の『必勝法』です」というものだった。

 怒る気にもならなかった。むしろ「ハハハ…」と力ない笑いが口から漏れた。

 しかし結果的には、この「必勝法」には1万円以上の価値があった。こんなものにひっかかったことで私はものすごい自己嫌悪に陥り、馬鹿らしくもなって、その日以来すっぱりとパチンコをやめられたからである。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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