西牟田靖『僕の見た「大日本帝国」』

 
僕の見た「大日本帝国」―教わらなかった歴史と出会う旅僕の見た「大日本帝国」―教わらなかった歴史と出会う旅
(2005/02)
西牟田 靖

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 西牟田靖著『僕の見た「大日本帝国」/教わらなかった歴史と出会う旅』(情報センター出版局/1300円)読了。

 日の丸をあしらったブック・デザインと書名から、「右翼の本?」と誤解する向きもあるかもしれない。
 だが、そうではない。これは、1970年生まれの新鋭ノンフィクション・ライターが、アジア太平洋地域に広がる日本の元領土を踏破し、“大日本帝国の跡”を探し求めた長い旅の記録なのである。

 近代日本は、「欧米列強」以外で広大な植民地を有した唯一の国である。旧植民地の「いま」を見据えることは、日本の近現代、ひいては未来を考えるための重要なテーマの一つといえる。
 ゆえに類書も少なくなかった(たとえば、歴史家・大江志乃夫の『日本植民地探訪』など)が、過去の類書に比べて際立っているのは、本書があくまで“普通の若者”の視点から書かれている点だ。

 歴史家の視点でもなければ、左右いずれかに偏ったイデオロギッシュな視点でもない。著者は普通の若者のニュートラルな視点を保ったまま、1人の日本人バックパッカーとして現地の人々や戦跡と向き合う。その姿勢が、本書のみずみずしさの源になっている。

 著者は明らかに、“旅する若者のバイブル”『深夜特急』(沢木耕太郎)の影響下にある。ただし、本書に沢木流のナルシシズムは皆無。むしろ、私が連想したのは関川夏央の『ソウルの練習問題』(※)だ。

※関川の事実上のデビュー作。1984年に、『僕の見た「大日本帝国」』と同じく情報センター出版局から刊行された。

 『ソウルの練習問題』は、とかくイデオロギッシュに語られがちな日韓関係を、ふだん着の視点からとらえ直した点が画期的であった。それと同じ視点が、本書にはある。

 著者の物怖じしない行動の数々に、圧倒される。
 「反日の聖地」竹島や北朝鮮にも臆せず出向き、韓国では元従軍慰安婦たちの家を訪ね、ノモンハンにほど近い町では中国残留孤児の女性を探して話を聞く、という具合だ。

 そして、冷ややかな反日的対応に出合っても、親日的な歓待を受けても、著者は自然体で応じ、自分の思いを堂々と口にする。
 古い世代の日本人がそうした場面で陥りがちな、卑屈になったり尊大になったりする過剰反応から自由なのだ。その姿に、若い世代のしなやかな国際感覚が感じられて好ましい。

 親日的なはずの台湾で老夫婦から「バカヤロ!」「カエレ!」と日本語の罵声を浴びたり、逆に韓国の老人から日本統治時代を肯定する言葉を聞いたりと、著者が行く先々で体験する驚きの出来事の数々が、読者の固定観念を突き崩していく。
 親日も反日も、そのありようは我々が考えるよりずっと複雑で多様なのである。

 各章とも、「大日本帝国」統治時代の出来事について、平明でていねいな解説がちりばめられている。
 たとえば、「玉音放送というのは昭和天皇自らが国民に敗戦を伝えた放送のことだ」という一節がある。一世代上のライターなら、こんなことは「いわずもがな」ととらえ、いちいち説明しないだろう。

 著者は、近現代史に関する知識の乏しい若者を読者に想定しているのだと思う。若い世代が抵抗なく読めるような書き方をしているのだ。風変わりな“若者のための近現代史入門”としても読める一冊である。
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西牟田 靖 『僕の見た「大日本帝国」 教わらなかった歴史と出会う旅』

本の最初の方に、日本軍の最大進出線がひいてある地図が載っている。私は、この本を読み終えたあとこの地図に初めて気が付いたのだけれど、こんな遠くまで日本軍や移民の人は行っていたんだなあ、こんな遠くで、餓えたり、アメリカ軍にやられて、膨大の数の日本人が死んでい

コメント

Re: ご無沙汰しています
西牟田様

コメントありがとうございます。

以前贈呈いただいた続編のご著書、なかなかレビューできないままでいて、どうもすみません。
近日中に、必ず当ブログでレビューさせていただきます(アップしたらトラバしますね)。
  • 2010-08-05│04:12 |
  • 前原  URL│
  • [edit]
ご無沙汰しています
レビューを書いていただきありがとうございました。
著者の西牟田靖です。
『僕の見た「大日本帝国」』の文庫版が発売されましたので紹介させてください。
http://www.amazon.co.jp/dp/404409425X
税込み940円。その後を追加取材したあとがき、松原隆一郎(東大大学院教授)の解説がついています。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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