小田嶋隆『人はなぜ学歴にこだわるのか。』



 小田嶋隆著『人はなぜ学歴にこだわるのか。』(光文社知恵の森文庫/648円)読了。

 小田嶋氏のことを、「私が現代日本でもっとも尊敬し、ひそかに師と仰ぐ批評的精神」と高く評価する内田樹さんが解説を書いている。

 小田嶋氏にとっては初の書き下ろし(単行本時)であり、初めて一つのテーマで一冊を書きとおした本でもある。

 推測するに、書き下ろしとなったのは、学歴という微妙なテーマの連載にどの雑誌も二の足を踏んだためであろう。連載を単行本化するほうが書き手にとってはオイシイ(連載時の原稿料と印税で二度オイシイ)のに、あえて書き下ろすほど、小田嶋氏にとっては書きたかったテーマなのだ。つまり、氏の著作のなかでも特別な位置を占める一冊。

 とはいえ、学歴「論」ではけっしてなく、あくまでコラム集である。いつもどおり、怜悧な批評眼とアイロニカルなユーモアにつらぬかれた、高水準のサタイア・コラム集になっている。ただ、すべてのコラムが学歴というテーマで統一されているというわけだ。

 就職・恋愛・結婚・出世・人間関係など、人生のさまざまな場面で見られる隠微な学歴差別をおもに扱っている。
 「隠微な」というのは、あからさまで重大な差別ではなく、なにげない言葉の中に隠れている微妙な差別感情などにスポットを当てている、という意味である。

 日常会話のなかでは言葉にすることがはばかられるか、あるいは、差別が潜んでいることすら多くの人は気づかない、まさに隠微な学歴差別。小田嶋氏は冷徹にそれを抉り出し、鮮やかに言語化してみせる。それも、読んでいて思わずニヤリとしてしまう皮肉のスパイスをきかせて。

 たとえば、首相時代の田中角栄に冠された「今太閤」なるキャッチフレーズについて、小田嶋氏は次のように喝破する。
 

 低学歴者の出世を中世の下克上伝説に重ね合わせるこの言いまわしは「中高卒は一生下積みで終わるはずだ」という前提がなければ成立しないのである。
 (中略)
「ってことは、おい、オレら中卒は室町末期の尾張の貧農の小せがれと同じってことか?」
 と、新聞社に問い合わせた人間は、当時、いたのだろうか?



 このような、学歴をめぐるイジワルなツッコミ芸が満載の本である。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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