絲山秋子『イッツ・オンリー・トーク』



 絲山秋子著『イッツ・オンリー・トーク』(文藝春秋/1429円)読了。

 文学界新人賞を受賞した表題作(デビュー作)と、短編「第七障害」を収録した第一作品集。

 「処女作にはその作家のもつすべての要素が凝縮されて」うんぬんとよく言うが、たしかに、「イッツ・オンリー・トーク」には、「袋小路の男」などで開花した絲山秋子の個性が原石のままつめこまれている。

 著者自身と重なる部分も多いヒロインが、寝たり酒を飲んだりして4人の男たちとかかわりをもつ様子が、目まぐるしく描かれる。4人はそれぞれ、EDの都議会議員、元ヒモの独身中年男、出会い系サイトで出会った痴漢、鬱病のヤクザ……という、なんとも濃ゆ~いキャラの面々である。

 ある程度キャリアを積んだ作家なら、この4人を一つの短編に詰め込むような無謀な真似はしないだろう。そのぶん個々の人物の掘り下げが甘くなるし、「面白おかしい登場人物を次々と登場させて読者の目を引こうとする、あざとい小説」と見なされやすいから。
 だが私は、あえて4人の濃いキャラを強引に詰め込む荒業に、絲山の「只者ではない」ところを感じてしまった。作品全体のバランスなど考えず、表現衝動の赴くままに書いた、という感じの迫力がある。
 とっちらかって未整理な印象の作品だが、細部には原石の輝きがちりばめられている。

 なお、タイトルの「イッツ・オンリー・トーク」とは、作中にも出てくるキング・クリムゾンの「エレファント・トーク」の一節。この人の小説はいつも、中に登場する曲のセンスが(ひねくれていて)よい。

 今日もクリムゾンだ。ロバート・フリップがつべこべとギターを弾き、イッツ・オンリー・トーク、全てはムダ話だとエイドリアン・ブリューが歌う。



 これがなんと、最後のくだりである。こんなふうにポンと投げ出すような(クリムゾンのことを知らない人には意味不明の)文章で平然と小説を終わらせるあたり、なかなかぶっ飛んだセンスではないか。

 併録作「第七障害」は、著者自身の趣味であるという障害馬術の世界を舞台にした、スポーツ小説ないし青春小説といってもよい作品。
 障害飛越競技で自分の失敗から馬を死に至らしめたヒロインが、そのトラウマを抱えつつ生きていく姿を描いている。『文学界』に掲載されたものだが、『小説すばる』あたりに載ってもおかしくない作品。

 ヒロインがトラウマを克服して競技に復帰するまでを描けば、普通のエンタメになるところ。だが、そこは絲山秋子、そんな「よくある展開」にはしないのである。

 2作とも、わりと面白かった。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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