死こそが生を輝かせる

 今日は、作家の佐江衆一さんを取材。藤沢市の閑静な住宅街にあるご自宅にて。

 帰りの電車の中で読んだ『週刊朝日』(9月2日号)に、ちょっといい文章があったので、メモがわりに引用する。翻訳家の鴻巣友紀子さんによる、伊坂幸太郎著『死神の精度』の書評の一節である。

【引用始まり】 ---
 人間があらゆる芸術を生み出したのは、死ぬのが怖いからだと思う。自分の存在が無になってしまう恐怖に打ち克つために、人はものを残す。(中略)文学といわれるものは、古代哲学から「セカチュウ」から金原ひとみまで、死=無ではないということをひたすら言ってきたのではないか。すべてのアートの根底には死、すなわち人間のモータリティがある。考えてもみてほしい。不死の世界でつくられる天上の音楽や詩なんて、実は退屈じゃないだろうか。
【引用終わり】 ---
 これを読んで私が思い出したのは、仏教経典で説かれる「長寿天」のこと。そこに住んでいる人はみな不老不死で病気一つしないという、架空の世界である。

 不老不死は人類の見果てぬ夢であるから、「長寿天」は一見パラダイスのように思える。だが、じつはそうではない。経典には人の成仏を妨げる「八難処(8つの難所)」が挙げられていて、この「長寿天」もその一つなのである。
 つまり、「不老不死の世界になど住んでいたら、人はけっして成仏できず、真の幸福にもたどりつけない」と、仏教の叡智はとうの昔に見抜いていたのである。

 死があるからこそ生は輝く。死を恐れる人間が「死=無」ではないことを証するためにつくるからこそ、芸術は人の心を揺さぶる。「エロス」と「タナトス」は表裏一体のワンセットだ。

 と、話がヘンに大仰になりましたが……。

 そうそう、「死があるからこそ生は輝く」といえば、先日読んだアップルのスティーブ・ジョブスのスピーチに、感動的な一節があった。

 → http://pla-net.org/blog/archives/2005/07/post_87.html

 全部素晴らしい内容だが、「PART5.ABOUT DEATH」から下はとくに胸を打つ。印象的な一節を引こう。

【引用始まり】 ---
 天国に行きたいと願う人ですら、まさかそこに行くために死にたいとは思わない。にも関わらず死は我々みんなが共有する終着点なんだ。かつてそこから逃れられた人は誰一人としていない。そしてそれは、そうあるべきことだから、そういうことになっているんですよ。何故と言うなら、死はおそらく生が生んだ唯一無比の、最高の発明品だからです。それは生のチェンジエージェント、要するに古きものを一掃して新しきものに道筋を作っていく働きのあるものなんです(訳/市村佐登美)
【引用終わり】 ---
 このスピーチは、ホイジンガの「メメント・モリ(死を想え)」の21世紀版だ。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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