堺正一『塙保己一とともに』

塙保己一とともに―ヘレン・ケラーと塙保己一塙保己一とともに―ヘレン・ケラーと塙保己一
(2005/09)
堺 正一

商品詳細を見る


 堺正一著『塙保己一とともに』(はる書房/1575円)読了。

 塙保己一(はなわ・ほきいち)は、江戸後期の盲目の国学者。学問とは無縁の農家に生まれ、まだ文字すら覚えていない幼少期に失明しながら、すさまじい努力のすえに学者となった。

 大文献集『群書類従』の編纂などの文化事業に生涯をささげ、その功績から、晩年には幕府によって大名並みの厚遇を受けた。

 点字もテレコも自動車も電話もない時代に、盲人が666冊におよぶ文献集を編纂する――そこまでの道のりは、どれほど険しいものであったことか。
 あのヘレン・ケラーも、幼少期に母親から保己一について教えられ、その生き方を自らの範としたという。

 本書は、保己一の平明な伝記。中学生にも読みこなせる内容だが、大人が読んでも十分に感動的である。

 保己一が障害を乗り越えて偉業を成し遂げたのは、学問にかけるそのすさまじい情熱に打たれた周囲の人々が、次々と援助の手を差し伸べたからでもあった。

 たとえば、若き日の保己一がある旗本夫人のもとに「あんま」に通っていたときのこと。夫人は、若者が学問好きであることを知り、あんまを終えたあとに本を読んで聞かせてくれた。
 ある夏の午後、いつもどおりあんまのあとに本を読み聞かせていたとき、ふと見ると、保己一は自らの両手をひもで結わえていた。
「なんのために手を縛っているのですか?」
 夫人が尋ねると、保己一は答えたという。

「蚊に刺されると、つい手で叩いたり追い払ったりしてしまいます。そのことで気が散って、せっかく奥様が読んでくださるものを一言でも聞き逃すことがあったらたいへんです。ですから、蚊などに惑わされず集中できるよう、結わえているのです」

 保己一の高潔な人格にも胸打たれる。
 彼は、盲人社会の超エリートである「検校」となってからも、一汁一菜の質素な生活をつらぬき、名聞名利に頓着しなかった。そればかりか、学問研究と出版のための費用を自ら負担するため、つねに数千両の借金を抱えていたという。


関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

ブクログ・MY本棚

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
32位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
22位
アクセスランキングを見る>>