『カナリア』

カナリア カナリア
石田法嗣 (2005/10/28)
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 『カナリア』をDVDで観た。
 『害虫』『黄泉がえり』『月光の囁き』の塩田明彦監督が、オウム真理教事件をモチーフに作った映画。作中のカルト教団はオウムならぬ「ニルヴァーナ」だが、名前が変わっているだけで、細部に至るまでオウムそっくりだ。
 
 地下鉄サリン事件によって日本中がオウム一色に染まった1995年に、レディースコミックの売り上げが激減したと聞いたことがある。連日ワイドショーを騒がせたオウム事件のほうが、レディコミよりもはるかにどぎつくて「面白かった」のである。

 つい10年前にはそれほど日本中がオウム漬けになっていたのだから、いまさらオウム事件を真正面から映画化したところで、昔のワイドショーをダイジェストするみたいなもので、面白くないのは目に見えている。いまあえてオウムを描くには、なんらかの斬新な切り口が不可欠なのである。

 塩田明彦(脚本も)がこの映画で示した切り口は、「オウム事件を、信者の少年の視点から、しかもロードムービー仕立てで描く」というものだった。なかなか卓抜な着想である。

 主人公は、「ニルヴァーナ」の出家信者の少年・光一。母親に連れられて出家させられた彼には、ともに出家した幼い妹がいた。
 教団がテロ事件を起こしたのを契機に、子どもたちは児童相談所に保護され、妹は祖父に引き取られる。が、祖父は反抗的な光一の引き取りを拒否し、兄妹は引き裂かれる。

 そして光一は、妹を祖父から取り戻すために児童相談所を脱走するのだった。彼は途中で、同い年(12歳)の孤独な少女・由希と出会う。
 ロリコン男相手に援交をくり返す由希には、同じく援交の果てに高速を走る車から落ちて亡くなった、あの哀しい少女の姿が投影されている。彼女も、たしか12歳だった。
 由希は、車内で突然豹変した援交相手の暴力から逃れようとしていたとき、そこを通りかかった光一に助けられ、彼の旅の道連れとなる。その旅を描いた、風変わりで哀切な「ロードムービー」なのである。それでいて、オウム事件に対する監督の批評も十分に織り込まれている。

 塩田監督の作品はほかに『害虫』しか観たことがないが、「ヒリヒリと痛い映画を撮る人だなあ」という印象を受けた。この『カナリア』も、十二分にヒリヒリと痛い。

 これは“もう1つの『害虫』”であり、また、“塩田監督にとっての『誰も知らない』”でもあろう。主人公・光一は、『害虫』の宮崎あおいや、『誰も知らない』の柳楽優弥と二重写しになる。

 光一役の石田法嗣と由希役の谷村美月が、素晴らしい演技をみせる。2人とも「目ヂカラ系」の凛とした美少年・美少女だが、まだ芸能界ズレしていないピュアな感じをみなぎらせている(石田クンはどこかで見たことがあると思ったら、佳編『バーバー吉野』で「カッコイイ転校生」を演じた子だった)。

 教団幹部となり、テロ事件にかかわっていく光一の母を演じた甲田益也子も、強烈な印象を残す。
 あの「ディップ・イン・ザ・プール」の甲田である。この役は、彼女以外には考えられないハマリ役だ。善意に満ち、母としての愛情も十分に持ちながら、カルト教団に入ったがゆえに破滅していく“狂信の聖母”――そんな複雑な難役を、見事に演じ切っている。オウム幹部の女性と同じ「目」になっているところがすごい。

 『害虫』は傑作ではあったが、あまりにも救いのない荒涼たる物語だった。対して、この『カナリア』にはあたたかさと救いがあり、明るい希望の余韻も残して終わる。その分だけ、私は『カナリア』のほうが好きだ。小さな瑕疵はあっても、それを補って余りある美点をもつ映画である。

 カナリアは、一度も映画の中に出てこない。だからこそ、『カナリア』というタイトルについて深読みしたくなる。
 それはもちろん、オウムに対する強制捜査の際、先頭の警官が手にもって入った鳥かごの中のカナリア(毒ガスをいち早く察知するから)のことだろう。しかし同時に、主人公2人のことでもあると思う。

 詩人や小説家は、社会にとって「炭鉱のカナリア」の役割をもっていると言われる。社会が危険な方向に向かい始めたとき、詩人や作家は鋭敏な感受性でいち早くそのことに気づき、世の人々に警鐘を鳴らす。ゆえに「炭鉱のカナリア」に喩えられるのである。
 光一も由希も、鳥かごに入れられ、毒に満ちた社会の先頭を歩くことを強いられたカナリアのようだ。
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「カナリア」

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東スポは神 そしてカナリア見てくれ

我らがxxxの記事が…「ゲツゲッゲッ。もうかりまっか」が口癖だって!嘘だろ初めて聞いた!まあそんなことはどうでも良くて、映画の事書いたら思いのほか反応があったのでもう一つ。カナリア【キャスト】石田法嗣/谷村美月/西島秀俊/りょう/つぐみ/甲田益也子/水橋研二/戸田

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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