芥川/直木賞「受賞の言葉」コレクション

 最近ひいきの作家の1人、絲山秋子がついに芥川賞受賞。めでたい。
 絲山は、受賞に際して「のどの小骨が取れたよう」と語ったのだそうだ。4回目のノミネート(直木賞も1回候補になった)でようやく受賞し、うれしさよりも安堵が先立つ気持ちが伝わってくる。巧まざる名言といえよう。

 この受賞を寿いで、前にメインサイトで書いた「芥川/直木賞『受賞の言葉』コレクション」を、以下にコピペしておこう。
----------------------------------------------

 長じてから小説家になるような人は、たいてい、10代前半のころから小説家を目指しているものだ。そして彼らは、そのころから「私の小説が映画化されたら、主演女優は誰がいいか?」とか、「芥川賞を取ったら受賞の言葉はこんなふうにしよう」などと、やくたいもないことを夢想しては、貴重な青春の日々を浪費していたりする。そんなわけで、女流作家の「受賞の言葉」には名言が多い。

 たとえば、山田詠美が87年に直木賞を受賞した際の、こんな言葉――。

「これからも、自堕落な私生活とストイックな執筆生活を両立させていきたい」

 山田詠美といえばスキャンダラスな話題の多い作家だが(昔SMモデルをやっていたとか、当時のヌード写真を「撮り下ろし」と偽って掲載した雑誌の編集部に殴り込んだとか……)、スキャンダルをむしろ“養分”として成長を続けるしたたかさを持った作家でもある。
 直木賞授賞式のあいさつで述べたこの言葉には、そんな彼女の個性が十全に表現されていて、じつにカッコイイ。芥川/直木賞をめぐる女流作家の受賞の辞の、ベストワンだと思う。

 ついでにワーストワンも紹介しておこう。荻野アンナが91年に芥川賞を受けたとき、受賞を知らせる電話に対して答えたという、この言葉だ。

「あっ、ショウ(賞)」

 彼女はかねてより、「受賞の知らせを受けたときはギャグで答えようと思って」いたのだそうだ。満を持して放ったギャグがこれだというのだからコワイ。電話の向こうで、受賞を知らせた文藝春秋の社員はどう反応したのだろう? 御祝儀がわりに笑ってあげたのか? それとも椅子からずり落ちたのか?

 この「あ、ショウ」発言をめぐっては、荻野とコラムニストの中野翠との間でちょっとした“論争”も起きた。

 荻野同様、笑いについても一家言ある中野は、雑誌の連載コラムで「あ、ショウ」を「目まいしそうな、純文学界の低レベル『ギャグ』」とおちょくり、「『ギャグ』って言葉をそう簡単に使わないでいただきたい」と荻野に釘をさしてみせた。すると、荻野も別の雑誌の自分の連載コラムで反論、「ギャグ」の定義をめぐる世にも奇妙な“論争”に発展したのだ。

 もっとも、荻野はコラムの中で「東中野黄緑」を名乗るなど、いかにも“座興です”という雰囲気を漂わせての「反論」であったし、対する中野も、コラムの格好のネタとして使っていただけではあろうが……。

 次は、我々の日常生活にも応用できる無難な名言。小川洋子が、4回連続で芥川賞候補にのぼったのち、91年にようやく受賞したときの言葉だ。

「過去4回の選後評は、私にとってかけがえのない道しるべになると思います」

 選考委員の評を「かけがえのない道しるべ」と言うあたり、いささか優等生的ではあるが、じつによい。読者諸氏も、何かの賞をもらった際には、ぜひこの言い回しを使ってみていただきたい。

 次に、80年代に直木賞を受賞した3人の女性の、味わい深い受賞の言葉を並べてみよう。いずれも正統派の名スピーチという印象である。

「50歳を過ぎて新しい分野のスタートラインに立ててうれしいし、スリルもあります。健康に不安もありますが、耳元でピストルが鳴った以上走らざるを得ない。今日からは直木賞を夫とも思い、といっても10年間世話になったテレビともうまく折り合って、楽しい作品を書いていきたい」向田邦子(80年)

「今日は太陽がいっぱい降り注いでいるような気がします。生まれて初めての経験です。酒場をやっているときに見た人間のギリギリの姿や、作詞をやって身につけた省略法など、いろいろなものがプラスして今回の受賞になったと思います」山口洋子(85年)

「直木賞の受賞者が入っている『文芸手帳』を見て、最後の空白の部分に林真理子と書くといかにもそぐわなくて笑ってしまう感じでした。私は直木賞について、一生そんなチグハグさを抱くことでしょうが、とまどいながらも、いつまでも新人の気持ちで精進していきたい」林真理子(86年)

 ――いずれも、言葉の中に歩んできた人生が凝縮されているという印象。そこがよい。

 最後に、芥川賞の受賞の言葉から名言を2つ。授賞式でのスピーチではなく、『文藝春秋』誌上に掲載された「受賞のことば」の抜粋である。

「受賞の夜、このまま眠ると、朝になって夢だったということになるのではないか、という不安で寝つけませんでした。いまもって、ただ思いがけなかったという以外の実感が湧いて来ません」津村節子(65年)

「東大を出てからよほどになるのに、なおその学歴を意識しているような人に有能な人はすくない、卒業以来ほとんど進歩していないからだ、という意味のことを、きくか、読むかした記憶があります。このたび芥川賞をいただいて、私はこの思いがけない栄誉にそのようなすがり方をするような気になってはならないと、考えています。受賞を意識しなくなる日がくるように、私は自分のささやかな文学が自分なりにわずかずつでもよくなるよう精一杯勉強していきたく思います。芥川賞受賞をもっぱら、初心を忘れぬための灯としてゆくつもりでおります」河野多恵子(63年)

  ――2つとも、どんな分野の「受賞の言葉」にも応用可能な、普遍性を感じさせる名句といえそうだ。さすがは言葉のプロたち。 
関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

ブクログ・MY本棚

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
30位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
21位
アクセスランキングを見る>>