ライター業界の昔話


フリーライターになろう!フリーライターになろう!
(2012/04/25)
八岩 まどか

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 私がライターになったのは、1986年のことである(フリーになったのは翌87年)。

 最近、いろいろな場面で、「昔に比べたら仕事が楽になったなあ」としみじみ思う。

 私がライターになった80年代後半にはインターネットなどまだなく、ちょっとした調べものにもいちいち図書館などに出向かなければならなかった。いまならネットで1分でわかることを調べるのに、1日がかりだったものだ。

 パソコン通信の黎明期であったが、フリーになりたての私はパソコンどころかワープロすらもっていなかった。ファクスもなかったので、送信の必要が生じたときにはNTTの営業所まで出向いて有料ファクスで送った(コンビニのコインファクスも普及前だった)。
 いや、ファクスで送ること自体、当時の私としては異例のことで、原稿は「電車に乗って編集部まで届けに行くもの」だった。しかも手書きの原稿を、である。

 手書きだと、あまり枚数がこなせない。シャープペンシルを握る手が痛くなってしびれてくるからである。「0.9㎜の芯を使うと手が疲れない」という話を先輩ライターから聞いて、それ以来0.9㎜のシャーペンしか使わなくなった。

 CDや映画などの紹介記事を書く場合の写真素材も、当時はわざわざ取りに行ったりしたものだ。それがいまでは、メールで画像を送信してもらったり、ダウンロードしたりして、かんたんに入手できる。

 当時に比べていまのほうがたいへんになったことが、1つだけある。それは、取材先の文化人等の連絡先を調べることだ。
 昔は、版元に電話して「作家の○○先生に取材申し込みをしたいのですが……」と言えば、気軽に教えてくれた。それが、「個人情報保護法」の施行以後、手続きを踏まなければ教えてくれなくなった(そのことが「悪い」と言っているわけではない。むしろ当然であろう)。
 とはいえ、いまではたいていの文化人は自分のサイトやブログをもっているから、そこからメールでコンタクトすればよいわけで、自宅の住所や電話番号を教えてくれなくてもさしたる不都合はない。

 ライターの原稿料の相場は、オソロシイことに、私がフリーになったころからほとんど変わっていない(ゆえに、「卵と原稿料は物価の優等生」などと言われたりする)。

 しかし、昔を肌で知る私に言わせれば、相場が変わっていなくても、実質は値上げされてきたのである。OA機器の進化やネットの普及などで、ライターの仕事にかかる労力は確実に下がってきたのだから……。

 昔はあたりまえだったのに、いまはめったになくなったことといえば、もう一つ、「目の前で編集者に原稿を読まれること」がある。

 昔は、仕上げたばかりの原稿を編集者に渡し、その感想を直接聞くまでが、一つの儀式のようなものだった。
 編集者が原稿を読み終えるまでの、ちょっと手持ち無沙汰で、不安と自信がないまぜになった奇妙な気持ち――あれはあれで、ライター稼業の醍醐味の一つだったと思う。

 いまでは原稿はメールで送るものなので、編集者からのヴィヴィッドな反応が見られなくて寂しい。
 それどころか、一つの連載が始まってから終わるまで、担当編集者に一度も会わず、電話で話すらしたことがない(つまり、メールのやりとりだけですべてが完結する)……なんてことも少なくない昨今である。

 昔は、初めて仕事をする編集者とは、「ま、電話じゃなんですから、とりあえず一度お会いしませんか?」という話になったものだが……。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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