大藪春彦のトンデモ小説『餓狼の弾痕』

餓狼の弾痕 (角川文庫)餓狼の弾痕 (角川文庫)
(1997/08)
大藪 春彦

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 久々に映画版『蘇る金狼』『野獣死すべし』を再見したので、大藪春彦にかぶれていた少年時代のことを思い出してしまった。

 『蘇る金狼』『野獣死すべし』のほか、『汚れた英雄』『傭兵たちの挽歌』『黒豹の鎮魂歌』『血の来訪者』『東名高速に死す』など、読みまくったものだった。
 ちなみに、私がいちばん好きな大藪作品は、『野獣死すべし』の第2部「復讐編」(これも藤岡弘主演で映画化されている)。

 で、「そういえば、晩年の作品『餓狼の弾痕』(角川文庫)が『トンデモ本の世界R』に取り上げられていたなあ」とふと思い出し、図書館で借りてきて読んでみた。『傭兵たちの挽歌』以降、大藪作品は読まなくなっていたので、これは初読。

 ううむ、これはたしかにスゴイ。世紀の怪作である。
 まるで、“大藪作品にかぶれた頭の悪い中学生が「オレも大藪みたいな小説を書くぞー」と意気込んでノートに書き散らした小説モドキ”みたいな作品なのだ。

 悪事をなして大金をもうけた政界のドンなどを標的に、彼らから財産を奪い取ることを業とした秘密組織「オペレーション・ヴァルチュアー」の活躍を描いた作品。……なのだが、その中身がぶっ飛んでいる。「オペレーション・ヴァルチュアー」の面々が悪玉を拷問して財産を奪い取るプロセスが、最初から最後までまったく同じなのだ。

 殺し方も同じ。口にするセリフまでほとんど同じ。殺す相手の名前などのデータが入れ替わるだけ。そのプロセスが20回以上くり返され、「そしてオペレーション・ヴァルチュアーは次の獲物を狙っている」という一行で唐突に作品は終わる。

 小説というより、悪趣味なミニマル・アートのようだ。大藪春彦は狩猟が趣味で、仕留めた野生動物の生肉をよく食っていたらしいから、何か悪い寄生虫にでも脳をやられていたのではないか。…と、そんなことすら考えたくなるすさまじい内容である。

 何よりスゴイのは、これが月刊『野生時代』に連載されていた作品だということ。作品がここまでぶっこわれていたのに、担当編集者も編集長も、相手が大物だから何も言えなかったのだなあ。


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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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