川﨑二三彦『虐待死』



 川﨑二三彦著『虐待死――なぜ起きるのか、どう防ぐか』(岩波新書/842円)読了。

 著者は32年間にわたって児童相談所に勤務し、その後は児童虐待問題の研究・研修を行う「子どもの虹情報研修センター」で働いている人物(現在は同センター長)。

 つまり、一貫して児童虐待問題の最前線に身を置き、その防止に尽力しつづけてきた当事者なのだ。

 本書は、その著者が児童虐待の究極――「虐待死」問題の全体像を示すべく書いた概説書である。
 センセーショナルな一つの虐待死事件を深く掘り下げた書は多い一方で、「虐待死の全体を視野に入れて論じた書物は意外に少ない」(「まえがき」)ものだ。

 ゆえに、「通読することで、虐待死の問題に関する歴史、現状、取り組むべき課題のエッセンスがつかめるよう」(「あとがき」)に書かれた本書の意義は大きい。
 また、児童相談所の現場を知り尽くした人だけに、隅々にまで豊富な蓄積が感じられる好著になっている。

 虐待死についてのノンフィクションの中には、いたずらにドギツい場面を強調する、過度に煽情的なものが少なくない。
 「感動ポルノ」という言葉があるが、その手の煽情的ノンフィクションも、ある意味で「感動ポルノ」だろう。

 それに対し、本書は一貫して抑制的な筆致を保っており、煽情性を注意深く避けて書かれている。
(その美点を裏返せば、「お役所文書的」な堅苦しさが随所に感じられるという欠点にもなるのだが、それはさておき)
 多くの現場を目の当たりにしてきた著者は、もっと感情を込めようと思えば込められたはずだが、あえて冷静に書いているのだ。

 以下、印象に残った一節を引用。

 援助を求めること自体が、実は一つの能力であり、そうした力を持たない人がいることを援助者は知っておく必要があろう。(93ページ)



 三歳女児を三畳の和室で生活させたところ、調味料をこぼすなどしたため両手両足をひもで縛り、段ボール箱に入れて出さず死亡させた事例もあった。本来同一空間で過ごすのが家族だとしたら、この子どもたちは、養育放棄どころか、いつの間にか家族の一員から除外されていたと言っても過言ではあるまい。(98ページ)



 嬰児殺について考えるために、戦国時代から説き起こしてここまで見てきたが、こうして歴史を追っていくと、まるで人権意識の発展をたどるような感覚が生じてくる。換言すれば、生まれたばかりの命を一個の人格をもった人間として認めるために、私たちの社会は長い時間を要したのかもしれない。(123ページ)



 二◯◯◯年度ですら、児童福祉司等の人員不足が大きな問題となっていたのに、それから二◯年近くを経て、いまや一人の児童福祉司が抱える虐待相談件数は、当時と比べても三倍以上に膨らんでいる。そのため、一日五件もの安全確認を求められることがあると、期せずして複数の県の職員から聞かされた。(193~194ページ)



 テーマがテーマだけにヘビーな内容だが、児童虐待について知りたい人が、まず全体像をつかむため1冊目に読むべき本だ。

■関連エントリ
慎泰俊『ルポ 児童相談所』
黒川祥子『誕生日を知らない女の子』
杉山春『ルポ 虐待――大阪二児置き去り死事件』
石川結貴『ルポ 子どもの無縁社会』
森田ゆり『子どもへの性的虐待』
ささやななえ『凍りついた瞳』
夾竹桃ジン『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』

関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

ブクログ・MY本棚

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
27位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
22位
アクセスランキングを見る>>