澤村伊智『ファミリーランド』



 澤村伊智著『ファミリーランド』(早川書房/1728円)読了。

 俊英ホラー作家による、初のSF短編集である。
 『SFマガジン』に掲載された5編に、書き下ろしの1編を加えた計6編からなる。

 6編とも、未来を舞台にしつつ、いまの日常とあまりかけ離れていない世界を描いている。
 そして、SFではあってもどこかホラー味を感じさせるところが澤村伊智らしい。ゾクッとくる怖さが随所にあるのだ。

 全部が全部傑作とは言えず、玉石混交。とくに、後半3編はどれもパッとしないと思った。たとえば――。

 ラストの「愛を語るより左記のとおり執り行おう」は、未来の葬儀の話である。
 葬儀が完全にヴァーチャル空間で執り行われるようになり、葬儀業界自体が消滅した世界。そんななか、一人の老人が〝自分の葬儀は昔ながらのスタイルで執り行ってほしい〟と希望したことから起こる騒動を描いている。

 アイデアはよいが、アイデア倒れ。
 登場人物が昔の(つまり、現在ではフツーの)スタイルの葬儀にいちいち驚く様子が、我々から見るとバカみたいに思えてしまう。

 また、書き下ろし作「今夜宇宙船の見える丘に」は、未来の姥捨ての物語である。
 いまどきの介護の苦しさの延長線上に、十分あり得る恐怖の未来を描いて、澤村伊智らしい。
 だが、それが『未知との遭遇』風に展開していくあたりは、木に竹を接いだ感じで、あまり成功していない。ただし、オチには爆笑した。

 一方、前半の3編はそれぞれ素晴らしい。

 「コンピューターお義母さん」は、テクノロジーの進歩が嫁姑問題をいっそう複雑化させた未来を描いて、秀逸。アイデア・展開・オチの三拍子揃って優れている。

 「翼の折れた金魚」は、個人的にはいちばん気に入った一編。
 どこか名作映画『ガタカ』を彷彿とさせる物語で、もっとふくらませて長編化してもイケると思った。

 薬品を用いた「計画出産」(それによって生まれてくる子どもは金髪碧眼となり、能力も高い)があたりまえとなった未来世界。無計画出産で(つまり自然に)生まれた子どもたちは「デキオ」「デキコ」と呼ばれ、差別されていた。
 しかし、あるとき「計画出産」が孕む闇が明らかになってきて……という話。

 「マリッジ・サバイバー」は、進化した〝未来のマッチングサイト〟の物語。オチのホラー味は本書で随一かも。

 「ぼぎわん」や「ししりば」のような化け物は登場しないが、「いちばん怖いのは人の心だよ」とでも言いたげな、ほんのりホラー風味のSF短編集。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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