佐藤優『友情について』



 佐藤優著『友情について――僕と豊島昭彦君の44年』(講談社/1728円)読了。

 佐藤優さんが、埼玉県立浦和高校時代からの親友である豊島昭彦氏とともに作った、2人の人生記録の書。
 私は仕事上の必要から読んだのだが、とてもよい本だった。

 豊島氏は昨年、ステージ4の膵臓がんであることが判明。
 告知を受けたときには、すでに肝臓とリンパに転移もしていた。抗がん剤による延命治療しか選択肢がなく、その抗がん剤もやがて効かなくなるので、最後は緩和ケアで死を待つことになる……という状況であった。

 そのことを知らされた佐藤さんは、残された日々の中で、豊島氏の生きた証となる本を一緒に作ろう、と提案する。
 そして、闘病中の豊島氏にインタビューを重ねるなどして作り上げられたのがこの本である。書名の「僕と豊島昭彦君の44年」とは、2人が浦高で出会い、豊島氏が最晩年を迎えるまでの年月を意味する。

 親友の生きた証のため、作家が親友とともに一冊の本を作るという、他に類を見ない成り立ちの書だ。

 エロースでもアガペーでもない第3の愛がある。それがフィリアで、友情を意味する。友情は、同性間でも異性間でも成り立つ。哲学をギリシア語でフィロソフィアと言うが、知(ソフィア) に対する愛(フィリア) のことだ。豊島君と作品を書くことを通じて、私は1人のプロテスタント神学者として、フィリア(友情=愛) のリアリティーを追求しているのである(「Ⅰ友情」)



 豊島氏の人生記録の合間に、当時の佐藤さんの行動も記されている。それは、世間的には無名である豊島氏の記録だけでは、読者の興味を引かないからでもあろう。

 子ども時代から説き起こされ、浦高時代の共通の思い出を経て、社会に出てからの2人の軌跡が綴られていく。

 意外にといっては失礼だが、豊島氏の人生を記した部分も面白い。とくに、銀行マンとして日債銀の破綻を経験してからの怒涛の日々は、一級の企業小説のようにドラマティックだ。

 本書はきわめて個人的な内容の本ではあるが、同時に普遍的価値ももっている。とくに、2人と同世代の人々にとっては、自分の半生について思いを馳せるよすがとなる一冊だろう。

 自分の持ち時間が限られていることを豊島君は自覚しながらも、1日でも長く生きようと努力している。私は、豊島君の高校1年のときからの親友として、最期の瞬間まで伴走したいと思っている。



 本文の結びの一節である。そして、つづく「あとがき」にはこんな一節がある。

 豊島君について、公の場で語れることは、本書にすべて盛り込んだ。ただ、本書を書きながら、常に悩んだのは、死期が迫った友人を、自分は作品の対象として利用しているのではないかという自責の念だ。しかし、そのような感傷を吹き飛ばす力が、豊島君の人生にはある。
 本書がよき読者に恵まれることを望む。



 豊島氏は、本書刊行後の今年6月8日に亡くなった。
 しかし、それ以前のまだ元気だったころに、本書刊行記念のトークショーを佐藤さんとともに八重洲ブックセンターで行うなどした。

 本書はまさに、豊島氏の生きた証として、そして2人の友情の証として世に残ったのだ。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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