『乾いた花』



 『乾いた花』を映像配信で観た。



 篠田正浩による、石原慎太郎の短編小説の映画化。
 和製フィルム・ノワールであり、〝ヌーヴェルヴァーグなヤクザ映画〟である。タイトルだけは知っていたが、初めて観た。

 1964年――つまり、前の東京オリンピックの年に作られた映画。
 いまから55年も前の作品なのに、すこぶるクールでスタイリッシュ。封切り当時に観ていたら、さぞ斬新に思えたことだろう。

 モノクロの画面に躍動する、光と影のダイナミックなコントラスト――。暗い夜の場面が多いのに、ヴィヴィッドな色彩感覚が感じられる。撮影が素晴らしい。

 組のために人を殺して服役し、出所してきたばかりのヤクザ・村木(池部良)と、賭場に現れては後先考えない金の張り方をする謎めいた若い女・冴子(加賀まりこ)。2人の出会いと別れの物語だ。

 賭博のスリルくらいにしか生の実感を感じられない2人が、少しずつ破滅に向けて歩を進めていくプロセスが、物語の主軸となる。

 一般的なヤクザ映画のようなカタルシスはなく、むしろ奈落の底に落ちていくようなデカダンスに満ちた、奇妙な味わいのヤクザ映画。

 「手本引き」など、ヤクザが仕切る賭博をじっくりと描いたギャンブル映画としても貴重だ。
 ハードボイルドな雰囲気を全身から発散する池部良がやたらとカッコよく、「妖精」と呼ばれていた若き日の加賀まりこがチャーミング。

 マーティン・スコセッシやフランシス・コッポラにも影響を与えた映画だそうだ。
 また、関川夏央原作の一連のハードボイルド劇画(『真夜中のイヌ』や『事件屋稼業』『海景酒店』など)も、明らかにこの映画に影響を受けている。
 たとえば、『事件屋稼業』にも「乾いた花」と題した一編があった(ストーリーは別物)。また、ハードボイルド短編集『海景酒店』所収の「東京式殺人」は、賭場のシーンやラストシーンなどが、明らかに『乾いた花』へのオマージュとして作られている。

 「東京式殺人」は当時、フランス人アラン・ソーモンが書いた脚本を関川が潤色したという形で発表されたが、ソーモンは架空の人物であることを、最近関川が明かした。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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