赤松利市『ボダ子』



 赤松利市著『ボダ子』(新潮社/1674円)読了。

 『藻屑蟹』で大藪春彦新人賞を受賞してデビューした、63歳の大型新人・赤松利市の4作目の小説。

 私が読む赤松作品は、これが3作目。『藻屑蟹』のときから「大藪春彦って感じじゃないなァ。もっと純文寄りの人ではないか」と思っていたが、この第4作はなんと、自らが小説家になるまでの半生を描いた私小説である。

■関連ブクログ・レビュー
赤松利市『藻屑蟹』
赤松利市『らんちう』

 版元の内容紹介が簡にして要を得たものなので、引用する。
 


バブルのあぶく銭を掴み、順風満帆に過ごしてきたはずだった。
大西浩平の人生の歯車が狂い始めたのは、娘が中学校に入学して間もなくのこと。
愛する我が子は境界性人格障害と診断された……。
震災を機に、ビジネスは破綻。東北で土木作業員へと転じる。
極寒の中での過酷な労働環境、同僚の苛烈ないじめ、迫り来る貧困。
チキショウ、金だ! 金だ! 絶対正義の金を握るしかない!
再起を賭し、ある事業の実現へ奔走する浩平。

しかし、待ち受けていたのは逃れ難き運命の悪意だった。
未体験の読後感へと突き動かす、私小説の極北。



 タイトルの「ボダ子」とは、主人公の娘のこと。「ボーダーライン」(境界性人格障害)ゆえに「ボダ子」なのだ。
 娘との関係が小説の大きな核にはなるのだが、「ボダ子」は主人公ではない。主人公はあくまで、作者の分身である還暦間近の男・大西だ。

 著者インタビューによれば、本作の内容は100%実体験なのだそうだが、「ホントはかなり脚色があるのでは?」と勘ぐりたくなる。それくらいすさまじい内容である。
 私小説ではあるが、エンタメ的な面白さも十分にあり、私は一気読みしてしまった。

 きれいごとだけでは済まない被災地の現実の描写も鮮やかで、優れた「震災文学」でもある。

 勝目梓の『小説家』のように、エンタメ作家が本気で私小説を書くとすごいものが出来上がることがあるが、本作はまさにそれ。

■関連エントリ→ 勝目梓『小説家』

 量産のきくタイプの作品ではなく、一回限りの場外ホームランのようなものだと思うが、間違いなく赤松利市の代表作になるだろう。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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