平山夢明『恐怖の構造』



 平山夢明著『恐怖の構造』(幻冬舎新書/842円)読了。
 
 独創的なホラー小説を書き続けてきた作家・平山夢明(ちなみに、「夢明」といういかにもペンネームっぽい名前は本名だそうだ)が、「人間にとって恐怖とは何か?」――恐怖や不安の心理メカニズムとはどのようなものかを、突きつめて考えた本。

 平山の小説以外の著作には、時々ひどい手抜きのものがある。が、本書はとてもよくできた面白い本だった。
 なにしろ、作家として「怖い小説を書くための作法」を考えつづけてきた「恐怖書きのプロ」だから、恐怖についての考察は自家薬籠中の物なのだ。

 第一章「恐怖の本質」は、哲学者ベルクソンが「笑い」の本質を探求した名著『笑い』に匹敵する……と言ったらさすがにホメすぎになるが、少なくとも部分的には『笑い』を彷彿とさせる鋭い考察がある。

 たとえば平山は、恐怖と笑いは地続きだという。

 バナナの皮で滑って転ぶという笑いは、転倒した人が頭から血を流した瞬間から恐怖に変わるように、恐怖と笑いは薄皮一枚の差なんですね。
 これらふたつの関連性は、学術的にも研究されています。オランダの動物行動学者であるヤン・ファンホーフは、霊長類が恐怖を感じたときに見せる「グリマス」と呼ばれる表情が、人間の微笑みの起源ではないかとの仮説を提唱しています。



 平山はつづけて、「エロスと恐怖というのは表裏一体」だという。
 男性しか出演しないホラー映画が皆無に等しいのはそのためで、命を産み育む性である女性を死から守ることが、ホラー映画の基本線となるのだ、と……。なるほどなるほど。

 だから、ホラー映画ではカップルがいちゃついたり、ヒロインと一夜の契りを交わす場面がよく出てくるんです。あれは、これから起きる「生か死か」をいっそう際立たせるための、生命についての意味を強調させるための装置なんですね。


 
 このように、「小説でブッ飛んだバカなことばかり書いている平山だが、意外に深いこと考えてるんだな」(失礼!)と思わせる箇所が、随所にある。

 第3章「なぜ恐怖はエンタメになりうるのか」は、ホラー映画に限らない「映画の中の恐怖」を論じた秀逸な映画論になっている。
 第4章「ホラー小説を解読する」は、第一線のホラー作家である平山が、ホラー小説の書き方の極意を明かした章としても読める。
 
 巻末には、これまでも対談本を出している精神科医・春日武彦との、「恐怖の構造」をめぐる対談を収録。この対談もノリノリで面白い。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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