海老原嗣生『「AIで仕事がなくなる」論のウソ』



 海老原嗣生(えびはら・つぐお)著『「AIで仕事がなくなる」論のウソ――この先15年の現実的な雇用シフト』(イースト・プレス/1404円)読了。

 雇用ジャーナリストの著者による、「AI雇用破壊論」への反駁の書である。
 「AIの進化と普及によって、近い将来、人間の仕事の多くがなくなる」とする「AI雇用破壊論」は、英オクスフォード大学准教授のAI研究者マイケル・A・オズボーンと、同大のカール・ベネディクト・フライ研究員が2013年に発表した『雇用の未来――コンピューター化によって仕事は失われるのか』という論文に端を発する。
 同論文は、「近い将来、9割の仕事は機械に置き換えられる」とし、702の職種について消滅可能性を%で弾き出したものだった。

 また、同論文の後を追うように野村総研が発表した研究では、「これから15年で今ある仕事の49%が消滅する」と、時期まで特定して「AIによる雇用破壊」に警鐘が鳴らされた。
 2つの研究は日本のビジネス界にも衝撃を与え、以後、雑誌や本などで「AI雇用破壊論」が盛んに取り上げられた。

 だが、フライ&オズボーンの論文が出てから5年が経ったいまも、人の仕事はなくなるどころか、深刻な人手不足になっている。それはなぜか?
 著者は、2つの研究はいずれも、「雇用現場を全く調べずに書かれて」おり、「技術的な機械代替可能性のみを対象にした」ものにすぎないと言う。たとえば、いまある仕事がAIに置き換え可能であるとしても、その導入コストが雇用コストを大きく上回るとしたら、どの企業も導入しないのだ。

 2つの研究で「なくなる」とされている業種の人に著者が意見を求めると、一様に白けた反応が返ってきたという。

「現場では1人の人が、こまごまとした多種多様なタスクを行っている。それを全部機械化するのは、メカトロニクスにものすごくお金がかかる」
「ある程度大量に発生する業務はすでに、オートメーション化している。残りの部分で自動化できるところは少ない」
 
 こんな言葉を、何度も何度も聞かされたのだ。



 本書は、「AI雇用破壊論」の多くが、仕事の現場を知らずに書かれた机上の空論であることを解き明かしていく。そのうえで、この先15年の現実的な「AIによる雇用シフト」の見取り図を示した本なのだ。

 著者は、この先15年でAIに代替されてなくなる仕事は「せいぜい9%」程度だという。日本では少子高齢化による労働力減少のほうがそれを上回るため、AIは脅威ではなく恩恵になる、と……。

 ただし、著者は「AIで仕事がなくなる」ことが「ない」と言っているわけではない。
 AIが人の仕事の半分~9割を代替するのは、もっと遠い将来に「汎用AI」(特化型=専用AIの対義語で、「人間に可能な知的な振る舞いを一通りこなすことのできるAI」を指す)が生まれてからのことだ、というのだ。

 雇用の専門家である著者が、そのうえ、さまざまな仕事の実情を熟知する現場のプロたちに取材を重ねて書いている。そして、事務職・流通サービス業・営業職などのAI化がどのように進んでいくかを、鮮やかに浮き彫りにしていく。それは「AI雇用破壊論」で言われるほど劇的ではなく、ゆったりとした歩みとなることがわかる。

 AI研究者の松尾豊さん(東大准教授)が、「30年以上先の未来は原則的に予測不可能であり、2045年前後にシンギュラリティが到来するかどうかは、『わかりません』というのが研究者として誠実な答えだ」と言っていた(趣意)。
 たしかに、「シンギュラリティ後」を見てきたように語る言説は、どこかうさん臭い。
 その意味で、本書が予測の立てやすい「15年先」までの近未来に的を絞っているのは、納得できる(ただし、最終章では「15年後より先の世界」についても大局的に触れている)。

 また、第1章ではAI開発の歴史と現状についても手際よく概説されている。雇用問題に限らず、AI全般の入門書としても有益な書である。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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