植木雅俊著『法華経(100分 de 名著)』(NHK出版/566円)読了。
NHK・Eテレの教養番組『100分de名著』の本年4月放映分テキスト。例によって私は元の番組を観ておらず、新書感覚でテキストのみ読んでみた。
これは素晴らしい一冊。サンスクリット語原典からの法華経全編和訳(現代語訳)を成し遂げた仏教思想研究家の著者ならではの、質の高い法華経概説書になっている。
■関連エントリ→ 植木雅俊『仏教、本当の教え』
知識ゼロの状態から入門書として読むには、やや高度な内容。
だが、法華経について一通りの知識がある人が読むと、「なるほど、そういうことだったのか!」と、目からウロコが落ちる感動を随所で味わえる。
一例を挙げる。
「常不軽菩薩品」に登場する「不軽菩薩」は、仏道修行の基本とされる経典読誦を一切していないが、それはなぜかと著者は問いかける。そして、そのことの意味を解説するなかで、次のように書くのだ。
経典を読まないこの菩薩の振る舞いが『法華経』の理想に適っていたということは、仏道修行の形式を満たしているか否か、あるいは仏教徒であるか否かさえも関係なく、その人がどんな相手のことも尊重するのなら、その人は『法華経』を行じているととらえてよいことになるでしょう。逆に、仏道修行の形式を満たしていても、人間を軽んじるようなことがあれば、それはもはや仏教とは言えない。私はそこに、宗派やイデオロギー、セクト主義の壁などを乗り越える視点が提示されているように思うのです。
そのうえで、著者はネルソン・マンデラやキング牧師を例に挙げ、「そうした人たちの信念と行動も『法華経』の実践と言っていいのではないか」と、なんとも大胆な主張を展開する。
こうした〝開かれた法華経観〟は、素晴らしい。いわゆる「宗門的」な内向きに閉じた論ではない、21世紀にふさわしいグローバルな法華経解説の書だ。
発売時に買ったものの、厚さにおののいて「積ん読」のままになっている著者の『ほんとうの法華経』(橋爪大三郎との共著)も、読んでみよう。
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