オーブリー・パウエル『ヒプノシス全作品集』



 オーブリー・パウエル著、迫田はつみ訳『ヒプノシス全作品集』(シンコーミュージック/5400円)読了。
 読了といっても、LPレコードのジャケット・アート集だから、文章部分は多くないのだが……。

 英国の伝説的デザイン・チーム「ヒプノシス」。1960年代末から80年代前半にかけ、おもにロックのアルバム・カヴァーを手がけ、アルバム・カヴァーをアートにまで高めた偉大な革新者だ。

 本書は、そのヒプノシスの全カヴァー・アートをオールカラーで収めた、決定版ともいうべき作品集である。

 ロック・ファンには言わずもがなだが、ヒプノシスが手がけたアルバム・カヴァーには、発売当時の常識を打ち破った革新的デザインのものが多数ある。
 こちらのブログがその一覧をサムネイルの形で並べているが(ただし、これは「全作品」ではない)、このページを見れば、「あ、これもこれもヒプノシスなんだ」と得心がいくだろう。

 本書は、ヒプノシスの3人のうち、唯一の存命者であるオーブリー・パウエル(ほかに、ストーム・ソーガソンとピーター・クリストファーソン)が著者となり、おもなアルバムについてはくわしいコメントを添える形で、彼らの軌跡を振り返ったものだ。

 序文を寄せているのは、ヒプノシスがいくつかのアルバム・デザインを手がけたピーター・ガブリエル。彼はその中で、次のように書いている。

 大胆かつ驚異的で、時には途方もない創造性を発揮していたそのイメージを通して、ヒプノシスは世界で最も影響力のあるアルバム・カヴァーのデザイン会社となったのだ。
(中略)
 彼らの有名な作品の多くはタイトルも文章もなく、そのことが殆どのレコード会社の呪いの対象となった。ヒプノシスは、広告と芸術はベッドを共にすることはない、と考えていた。



 ヒプノシスの名を一躍高めたのは、ピンク・フロイドの『原子心母』(1970年)のデザインだ。アーティスト名もタイトルもないカヴァーは、当時の常識では考えられない大胆なものだった。



 この『原子心母』が大ヒットしたことで、ヒプノシスはそれ以前より自由にデザインに取り組めるようになった。

 オーブリー・パウエルのコメントはおもに、各デザインのアイデアと撮影の舞台裏を明かす内容になっている。

 一枚のアルバム・カヴァーのために、惜しげもなく予算が注ぎ込まれていた贅沢さに驚かされる。
 また、失敗したデザイン、オーブリー自身が気に入っていないデザインについては、驚くほど辛辣なコメントをしている。そのような赤裸々さも、またヒプノシスらしい。

 クイーンあたりはいかにもヒプノシスと相性がよいような気がするが、彼らのアルバムをヒプノシスは一枚も手がけていない。その裏話も明かされている。

 ヒプノシスは、クイーンと仕事をする寸前まで行っていた。いくつかの機会に興味深いデザインを出していたのだが、彼らはそのたびに拒絶した。だが、ドラマーのロジャー・テイラーは彼のソロ・アルバム『ファン・イン・スペース』のデザインを私達に依頼しようと思うくらい気に入ってくれており、実際にそうなった。



 私はロック史的興味から本書に手を伸ばしたが、グラフィック・デザインを手がけている人なら、デザインのヒントが本書からたくさん得られると思う。
 
関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

ブクログ・MY本棚

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
29位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
21位
アクセスランキングを見る>>