カレー沢薫『やらない理由』



 カレー沢薫著『やらない理由』(マガジンハウス/1188円)読了。

 マンガ家兼コラムニストとして、すっかり売れっ子になったカレー沢薫。つねづね言っていることだが、私はこの人をマンガ家としてよりもコラムニストとして評価している。

 本書は、日常生活の中のささやかなジレンマを一つずつ取り上げ、そのジレンマに悩んで自己嫌悪や反省をしがちな読者に対し、〝反省など必要ない。『○○したくない』という貴様の気持ちは正しい!〟と訴えかけるコラム集である。

 取り上げられているジレンマはたとえば、「お金は欲しいが、働くのは嫌」「痩せたいが、食べるのを我慢するのは嫌」「話は聞いてもらいたいが、あれこれ言われるのは嫌」……などというたぐい。

 それらのどうでもいいジレンマに対し、カレー沢薫はアクロバティックな文の芸を駆使して、読者をやみくもな自己肯定に導いていく。たとえば――。

 遠足も当日より前夜のほうが楽しいものである。ダイエットに成功するよりも、ダイエットに成功した自分を想像するほうが楽しい。(中略)
 つまり永遠にダイエットに挑戦&失敗することで、死ぬまで遠足前夜の気分が味わえるということだ。逆に成功してしまうことにより「痩せても無意味」という事実に直面してしまうことがある。自分で己への希望を断ち切るという愚か極まりない行為だ。つまり「ダイエットに失敗した」というのは「明日へ希望を繋いだ」ということである。



 ……とまあ、こんな感じの〝屁理屈芸〟が、33問・33答分くり返される。

 そこそこ面白かったが、最初期の『負ける技術』のように「何度読み返しても面白い」というレベルにはとうてい達しておらず、「一度読んだらもういいかな」という感じの出来。
 カレー沢薫の本を読んだことがない人には、まず『負ける技術』『もっと負ける技術』をススメたい。

■関連エントリ
カレー沢薫『負ける技術』
カレー沢薫『もっと負ける技術』
カレー沢薫『ブスの本懐』

 なぜクオリティが下がってきたかを考えるに、いまのカレー沢薫はあまりに忙しすぎるのだろう。
 いまやマンガ/コラムあわせて20本近くもの連載を抱えているそうだし、なおかつ月~金のOL生活もいまだに続けているというのだから、筆が荒れても仕方ない。

 大谷翔平の二刀流をディスる江本某のように、「カレー沢選手は、いまのままではマンガとコラム、どちらでも大成できません。どちらか一本に絞るか、もしくは会社を辞めるべきでしょう」と進言したい。

 それでも、随所にこの人ならではの独創的フレーズがちりばめられていて、そこにはまだ才能のきらめきが感じられる。たとえば――。

 「普通は嫌だ」そんな想いが、いつでも俺たちを普通以下にしてきた。その雄姿は卒業アルバムや文集にしかと刻まれ、それを見るたびに「普通」の尊さを知るのである。



 非リア充の朝は早い。毎朝4時には起き、邪神像に向かい、リア充の爆発を祈る。



 コミュ症の特徴として「世間話ができない」というのがある。どんな世間話を投げかけても全く続けられず、1ターンで終わらせるため、周りはそのうち世間話すら投げかけるのを止めるのだ。「世間にとやかく言われるには世間に入れていないとダメ」なのだ。



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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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