『マザー!』を映像配信で観た。
『ブラック・スワン』『レスラー』などの作品で知られるダーレン・アロノフスキー監督が、撮影当時には恋人だったジェニファー・ローレンスをヒロインに据えた作品。
「あまりに過激な内容から、日本では劇場公開が見送られた」という前情報から、半ば「怖いもの見たさ」で手を伸ばした。
事前に予想した「過激さ」のはるか斜め上を行く、もうムチャクチャな映画であった。
ジェニファー・ローレンス演ずる若妻と、ハビエル・バルデム演ずる高名な詩人の夫婦。2人が住む田園の邸宅に、不審な訪問者が次々とやってきて、家はメチャメチャになっていくという、不条理劇のようなストーリー。
じつは隠されたテーマは地球環境問題で、詩人は神、若妻は母なる自然、家は地球、我が物顔で家に入り込んでくる人々は人類のメタファーなのだという。
また、聖書の内容がストーリーのベースにあり、キリスト教の基礎知識がないとわかりにくい点も多い。つまり、「マザー」とは聖母マリアのメタファーでもあるのだ。
したがって、ヒロインがボロボロになっていくストーリー自体が一種の「神聖冒涜」であり、敬虔なクリスチャンの観客から非難を浴びた。
ただ、そのような背景がわかったうえで観たところで、感想としては「それで?」という言葉しか出てこない。
環境問題を啓発する手立てとしては、この映画はあまりにも「あさっての方向」を向きすぎではないか。
キャストもスタッフも一流揃いで、演技や演出は立派なもの。とくに、ジェニファー・ローレンスの「メーター振り切った」感じの熱演は素晴らしい。
なのに、ストーリーが子供だましなので、青臭い学生演劇を観せられているような印象しか受けなかった。
あと、不安を掻き立てられるような空気に満ちた映画なので、うつ傾向のある人は観ないほうがいいかも。