伊図透『ミツバチのキス』



 伊図透(いず・とおる)の『ミツバチのキス』新装版1~2巻(ビームコミックス/各896円)を購入。
 元は2008年から09年にかけて『漫画アクション』に連載された作品だが、私は初読。

 夏目房之介さんがブログで、「伊図透『ミツバチのキス』1,2(KADOKAWA) あらためて、すんばらしいっす。いいです。読んでくれ、みんな! いいたいことは、それだけだ」と、シンプル極まる賛辞を送っていたのを見て、買ってみた。

 確かに素晴らしい。これがデビュー作だったなんて信じられない。絵柄もストーリーテリングも、この時点ですでに完成されている。

 人に触れると、相手の内面や記憶が「わかってしまう」能力を持った草野慧(くさの・けい)をヒロインとしたSFヒューマン・ドラマである。
 それは客観的には「超能力」であり、その能力を利用しようと、カルト宗教団体や国家機関が彼女を奪い合う。
 だが、慧にとって、その能力は呪いのようなものでしかない。触れると相手のすべてがわかってしまうから、誰とも愛し合えず、世を忍んで生きていくしかないのだ。

 ネット上では五十嵐大介や岩明均を引き合いに出している人が多いが、私が思い出したのは筒井康隆の名作『七瀬ふたたび』だ。「超能力を持つがゆえの孤独」をエンタメ仕立てで描いているという点で、よく似ている。

 慧が触れた相手の内面にダイブする場面の描写が、独創的で素晴らしい。それは、小説でも映画でもできないマンガならではの表現だ。人の心の中を、これほど精緻に描いたマンガ家はいなかった。

 ただ、残念ながら、この作品は未完である。物語の風呂敷を広げすぎて収拾がつかなくなったのか、尻切れトンボな形で中断されているのだ。

 慧と互いに惹かれ合いながら、まだ一度も手を触れることもできない官僚・駿河との愛の物語は、このあとどうなるのか? いまからでも続きを描いてほしいものである。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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