竹中千春『ガンディー 平和を紡ぐ人』



 昨日は、取材で京都へ――。

 帰途、前回京都に来たときに京都国立博物館の「国宝展」を観るのに時間をかけすぎて、行きそびれた三十三間堂を観ようと考えた(京博は三十三間堂の目の前にある)。

 ところが、行ってみたら三十三間堂は午後3時半で拝観手続き終了とのことで(早すぎ!)、タッチの差で間に合わず。
 仕方ないので、今回も京都博物館に入った。私はよほど三十三間堂に縁がないらしい。

 が、仕方なく寄った京都博物館の「豪商の蔵」という特別展(廻船問屋・貝塚廣海家のコレクションを集めたもの)が、意外によかった。何事も結果オーライである。

 どうして三十三間堂を観たいかといえば、平田弘史の傑作短編「三十三間堂外伝」の舞台だという、ただそれだけの思い入れなのだが。
 「三十三間堂外伝」は「電脳マヴォ」で読めるので、未読の方はぜひ。


 行き帰りの新幹線で、2冊本が読めた。
 そのうちの一冊が、竹中千春著『ガンディー 平和を紡ぐ人』(岩波新書/886円)。書評用読書。

 マハトマ・ガンディーの評伝である。ガンディーについての本は、世界中で3000点くらい出ているそうだし、日本語の本も当然多い。
 が、その中にあって、本書は「現時点でガンディーを知るために、日本人が一冊目に読むべき本」になっている。

 私には(子供向けの本ではあるが)ガンディーについての著書もあるので、彼についての文献はそれなりの数を読んでいる。それらの中でも、本書はまぎれもない一級品だ。

 生い立ちから死までを時系列でたどり、没後の世界に与えた影響についても解説するという、評伝としてオーソドックスな構成。新書というコンパクトな器ゆえの制限もあるなか、ガンディーについて我々が知っておくべきことが、手際よく網羅されている。

 書物の性質上、読者を驚かすような衝撃の新事実が多数盛り込まれているわけではない。ガンディーにある程度くわしい人なら、旧知の事実がほとんどの内容だろう。

 それでも、著者ならではの卓見にハッとさせられる部分が2つあった。
 1つは、ガンディーがその晩年に、裸になって孫娘たちと添い寝していたという「奇行」エピソードに、独自の解釈を加えた部分。

 その「添い寝」のエピソードは、ガンディーを聖者として描きたい伝記作者は触れずに済ませ、一部の論者は性的スキャンダルとして扱った。
 著者の視点は、そのどちらでもない。ジェンダー研究者として、女性に対する性暴力に深く向き合ってきた経験をふまえ、著者ならではの解釈を披露している。それを読んで私は、これまでどう受け止めてよいかわからなかったガンディーの「奇行」の謎が、初めて解けた気持ちになった。

 もう1つハッとしたのは、ガンディー暗殺についての考察。
 通常、ガンディー暗殺犯ゴードセイについては、狂信的なヒンドゥー原理主義者としてあっさり触れられるのみで、彼の心の動きにまっとうな検討が加えられることはなかった。
 それに対して、著者は資料をふまえ、ゴードセイの内面にまで分け入っている。彼を単純な「悪役」にはしていないのだ。そのうえで、ガンディー暗殺事件に新たな光を当ててみせる。

 それは、ガンディーの中にも苛烈な「殉死」の思想があり、ゴードセイらが依拠したテロリズムの中にある「殉死」の思想と、じつはそれほど遠くなかったのではないか、という視点である。
 ガンディーの伝記などを読んで感じる、「晩年のガンディーは、暗殺されることを待ち望んでいたかのようだ」という違和感とモヤモヤに、著者は1つの答えを提示し、スッキリとさせてくれる。

 以上2点の独自の解釈だけでも、本書にはガンディーの評伝として高い価値がある。

 なお、「本書には衝撃の新事実はほとんどない」と書いたが、一つだけ、私が本書で知って衝撃を受けたことがある。
 それは、ガンディーの不肖の長男・ハリラール(放蕩生活の果てに行き倒れで死んだ。その生涯は『Gandhi My Father』という映画にもなっている)が、実娘のマヌー(最晩年のガンディーにつねに寄り添った孫娘)を8歳のころからレイプしていたという事実である。
 マヌーという女性は、なんと数奇な運命を歩んだのだろうか。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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