佐藤まさあき『影男』



 佐藤まさあきの『影男』シリーズがKindle電子書籍になっていて、しかも「KindleUnlimited」で無料で読めるので、読んでみた。

 貸本マンガから生まれた、劇画黎明期の伝説的作品であり、佐藤まさあきの代表作。
 もっとも、私は知識としては知っていたものの、実際の作品を読むのは初めて。いしかわじゅんが1980年代に描いた『影男』のパロディ・ギャグは読んだことがあるけど。

■関連エントリ
佐藤まさあき『「劇画の星」をめざして』
佐藤まさあき『「堕靡泥の星」の遺書』

 『影男』シリーズは、1960年に貸本劇画誌『影』で誕生し(だから『影男』なのだ)、67年にかけて貸本誌4誌に掲載。
 68年から72年ごろにかけては、『プレイコミック』誌に舞台を移して描き継がれた(→この研究サイトによる)。

 本書には初出がどこにも記されていない。表紙に「貸本劇画傑作選」と銘打ってあるから、貸本時代のオリジナル・ヴァージョンなのだろう。
 ……と思いきや、上記研究サイトには、Kindle版と同一らしいeBookJapan版について、「雑誌版(プレイコミック本誌その他掲載)の選り抜き集と理解して良いだろう」と書かれている。
 ううむ、よくわからない。もっとも、雑誌版は貸本時代の『影男』の自作リメイクが多かったようだが。

 初出についてはともかく、内容は、日活アクション映画や初期の大藪春彦作品の影響が顕著に見られる、なんとも不思議な無国籍ハードボイルド・アクションだ。
 「日本でこんなに拳銃をバンバン撃ちまくったら、たちまち大騒ぎになるだろうに」と心配になるくらい、銃撃戦シーンが頻出する。

 『影男』の主題歌「影のブルース」なるものの歌詞が何度か出てくるのだが、このへんは明らかに日活アクションの模倣だろう。

 主人公の影男は、「暗黒街のボス共からは死神のように恐れられる」、一匹狼の「拳銃使い」(という職業があるらしい)。彼が伝説の「無音拳銃」を手に入れるところから、物語は始まる。
 無音拳銃とは、「ヒットラーが一九四四年 ナチス親衛隊のために作った」とされる、「世界の拳銃使いが夢にまでみた幻の拳銃」。サイレンサーをつけた消音拳銃ではなく、「完全に無音」なのだという。

 それはまあ「設定」だからいいのだが、この第1巻を全部読んでも、無音拳銃のメリットがよくわからない。「持っていた拳銃が無音であったために、主人公が窮地を切り抜けた」というような場面が、一つもないのだ(笑)。

 ……そのように、いま読むとツッコミどころ満載の作品だが、発表当時にはすごくカッコよくて斬新な劇画であったはず。その歴史的価値は十分に伝わってきた。

 少し前まで入手困難であったこのような歴史的作品が、手軽に読めるようになっただけでも、電子書籍時代は素晴らしいと思う。
 
関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

ブクログ・MY本棚

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
23位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
18位
アクセスランキングを見る>>