石原慎太郎『凶獣』



 石原慎太郎著『凶獣』(幻冬舎/1620円)を読了。

 附属池田小事件の犯人・宅間守の生涯と、事件そのものを題材にしたノンフィクションである。
 とはいえ、一部の章には石原の創作が混ざっており(そのことは章頭に明記)、ノンフィクションとしてなんとも中途半端な出来だ。

 本自体も200ページ程度と薄く、内容も薄く、1時間足らずで読めてしまう。

 宅間守にくり返し接見した臨床心理士・長谷川博一と、国選弁護人として宅間の弁護にあたった戸谷(とだに)茂樹弁護士に、石原がそれぞれインタビューしている。
 だが、各一章を割いて紹介される2つのインタビューの内容は、たんに文字起こしをそのまま掲載しただけというひどい代物で、作品と呼ぶに値しない。

 この本自体も、事件記録などを引き写したような部分が目立ち、独自の鋭い考察があるわけでもない。年老いた石原慎太郎には、もうまともな作品が書けないのかもしれない。

 私は、宅間守と獄中結婚した女性のことが知りたくて、本書を読んだ。
 事件について謝罪も反省も述べないまま死に、人に感謝することすら皆無に近かった宅間が、この女性に対してだけ、死刑執行直前に刑務官を通じて「ありがとう」と伝言したという。

 本書によれば、彼女は死刑廃止運動にかかわるクリスチャンで、宅間の魂を救いたいとの思いから、ある人の養子になってまで(実の両親に取材攻勢などの迷惑をかけないため)獄中結婚をしたという。
 そして、宅間に邪険にされても拘置所に通いつづけ、最後には「凶獣」の心を開かせたのだ。

 そうしたことを知ることができただけでも、本書を読んだ価値はあった。
 また、作品としての質の低さはともかく、長谷川博一と戸谷茂樹弁護士に対するインタビュー自体は、衝撃的な事実を多く含み、読み応えがある。

 ただし、石原はインタビューの中で、女性の獄中結婚について、「あの女性の心情は売名なのですか?」などと失礼なことをくり返し聞いている。これまたひどいものである(長谷川も戸谷も、石原のその問いを言下に否定)。
 文学者なら、利害や自己顕示欲などを超えた宗教的使命感について、少しは想像できないものか。

■関連エントリ→ 長谷川博一『殺人者はいかに誕生したか』

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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