新谷学『「週刊文春」編集長の仕事術』



 昨日は、取材で湘南の辻堂へ――。

 ついでに上野に足を伸ばし、国立西洋美術館で開催中の「アルチンボルド展」を鑑賞。
 辻堂と上野はけっこう離れているので、「ついでに」という感覚はわかりにくいだろうが、「上野東京ライン」という路線だと辻堂-上野間は一本で行けるのだ。

 夏休みでもあるので来場者が非常に多く、ゆっくり鑑賞できなかったのはちょっと残念だったが、なかなか楽しめた。

 奇想の宮廷画家ジュゼッペ・アルチンボルドの絵は、近くに寄ったときと離れて見たときの印象がまったく違うので、「一粒で二度おいしい」というか、「一枚の絵で二倍楽しめる」感じがする(小学生並みの感想ですが)。 





 行き帰りの電車で、新谷学著『「週刊文春」編集長の仕事術』(ダイヤモンド社/1512円)を読了。
 昨今のスクープ連発で世の注目を浴びる『週刊文春』の現編集長が、自らの仕事術を開陳したもの。

 『週刊文春』におけるスクープの舞台裏が明かされるのはもちろん、編集者として駆け出しだったころからの思い出を振り返っており、ちりばめられたエピソード自体に読み応えがある。
 たとえば――。

 山口組系若頭射殺事件の関連で、ある大物組長の取材をしたときには、こんなこともあった。取材の最後にその組長に写真撮影をお願いすると、「写真十年や」と断られた。「ワシらの世界では、近影が出るとそれだけ的にかけられやすくなるから、寿命が十年縮むんや」というのだ。その取材からまもなく、インタビューした幹部3人のうち2人が射殺されたときには本当に驚いた。



 昨年から今年にかけて続々と刊行された“『週刊文春』本”のうち、私が読んだのはこれが3冊目だが、3つのうちいちばん面白かった。

■関連エントリ
週刊文春編集部『文春砲』
中村竜太郎『スクープ!』

 「仕事術」本としても、編集者の仕事に限らない普遍的なノウハウが多数紹介されている。
 たとえば以下の一節などは、あらゆる営業仕事に通ずる極意だろう。

 1回断られたぐらいであきらめてはいけない。あなたの熱意はその程度のものなのか、ということだ。
 よく現場の人間にも言う。断られたところから俺たちの仕事は始まるんだ、と。「ファーストアタックは失敗だったけど、次はどういう口説き方があるか」を全力で考える。編集者や記者の仕事は、口説く仕事だ。そして、私たちの仕事にはマニュアルがない。「こうすれば口説ける」という答えはない。そこは、みんなそれぞれ考えることしかない。



 また、編集長としてどう人材育成してきたか、編集部の結束力をどう高めてきたかが随所で綴られており、リーダー論・組織論としても価値がある。

 印象に残った箇所を引用しておく。

 職人肌の編集長、デスクほど、「美しい雑誌」を作りたがる。だが、週刊誌は美しさより鮮度。突貫工事でもイキのいいネタを突っ込むべきなのだ。丁寧に積み上げたものを最後にガラガラポンする蛮勇もときには必要なのである。



 伸びる記者かそうでないかを見分けるのは簡単だ。例えば「あれやってくれ」と指示をする。その指示に対して「指示どおりやったけどダメでした」と報告に来る記者は、そこまでだろう。本当に優秀な人間は「言われたとおりやってダメだったけど、こうやったらできるんじゃないですか」と返す。「こうすれば、記事は形になりますよ」「実際、こうやってみました」とくれば言うことなしだ。



 社交辞令で終わらせない。これは、仕事ができる人の特徴だ。何よりスピードがすごい。「○○さん、今度紹介してくださいよ」「いいよ」と言って、その場で電話をかける。「今、俺の目の前に文春の新谷さんって人がいるんだけど、ちょっと今度会ってやってよ。電話代わるから」といきなり電話を渡されるのだ。
 私もデスクや現場から「人を紹介してもらえませんか」と言われたら、なるべくその場で電話をかける。スピード感が大切なのだ。「どうしようかな」とウジウジ寝かせていたらネタは腐ってしまう。



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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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