福島次郎『蝶のかたみ』



 福島次郎著『蝶のかたみ』(文藝春秋)読了。

 2006年に亡くなった著者の代表作である「蝶のかたみ」と「バスタオル」の2編(いずれも芥川賞候補にのぼった)を収めたもの。
 私は、小谷野敦氏が「バスタオル」を高く評価していたので読んでみた。

 収録作2編とも、同性愛者であった著者の自伝的小説である。
 「蝶のかたみ」は、同性愛者の兄弟の絆を描いたもの。「バスタオル」は、高校教師と教え子の同性愛関係を描いたものだ。

 「蝶のかたみ」も好編ではあるが、一冊読了したあとには「バスタオル」のほうが鮮烈に印象に残る。芥川賞候補にのぼった際、選考委員の石原慎太郎・宮本輝が強く推したというだけのことはある。

 「バスタオル」は、途中までは哀切な純愛小説として読める作品だが、ラストに大きな転調がある。
 ネタバレになるので細かく説明はしないが、このラストは評価の分かれるところだろう。

 たとえば、芥川賞の選考委員であった古井由吉は、選評で「ただし末尾のバスタオルの悪臭は、『バスタオル』全篇を侵したと思われるが」と書いた。同様に、三浦哲郎と河野多恵子も、選評でラストに否定的評価を下した。

 私は逆に、ラストこそがすごいと思った。このラストを付したことによって、「バスタオル」は同性愛を描いた小説の白眉とも言える作品になったのではないか。
 
 かつて丸山健二は、『まだ見ぬ書き手へ』で次のように書いた。 

 三十歳を過ぎてしまうと、如何なる男女の交際もすでに恋愛などと呼べる代物ではないのです。どんなに言葉で飾ってみても、薄汚い、おぞましい関係なのです。(中略)
 いい年をした大人の男がそうまでしてその男女関係を美化せずにはいられないのか、ということまで書き、そうでもしなければならないほど己れの人生が惨めなものである、ということまでずばりと書いてこそ本当の恋愛小説なのです。



 「バスタオル」が描くのは男女関係ではないが、それはさておき、恋愛の「薄汚い、おぞましい」側面までも、自らの傷を抉るようにして描き切った点で、これこそ「本当の恋愛小説」だと思う。 

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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